第一章 天下統一編
第十六話 決裂
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飯が進みました。聞けば三河産のめざしと聞きました」
俺の話に北条氏規はくすりと笑った。北条家臣達は俺の呑気な世間話に呆気にとられている様子だった。先程までの殺伐した空気がいつの間にかかき消えていた。
「その上、徳川様は土産にめざしを包んでくださいました」
俺が笑顔で話している様子を北条氏規は穏やかな様子で聞いていた。彼の北条家臣達も城主、北条氏規、の様子の変化を感じ取っている様子だった。
「相模守殿、いい話をお聞かせいただいた。もっと相模守殿と語らいたいところだが、これ以上の語らいは互いの心を鈍らせてしまう」
北条氏規は穏やかな表情から真剣な表情に変わり俺のことを真っ直ぐ見据えた。彼は婉曲に俺に「帰ってくれ」と言っていた。これ以上世間話を続けても彼に利は無い。それに俺が徳川家康と縁があると打ち明けたことで、北条家臣達の気持ちに迷いが生まれる可能性もあり得る。
「ついつい話が弾んでしまい時間を忘れておりました。今日はこれくらいで失礼させていただきます」
俺は丁寧に頭を下げた。だが、俺はこのまま素直に帰るつもりはない。
「忘れておりました。美濃守殿。この地に旧知のご友人が参られることは二度とないでしょう」
俺は顔を上げると真剣な表情で北条氏規に伝えた。
北条氏規に対して俺は毒を更に蒔く。毒は毒でも遅効性の毒だ。もし、北条氏規が徳川家康に通じているならば、この毒はこの後に北条氏規の心を蝕むことだろう。そのために北条氏規と徳川家康の連絡の術を完全に断つ。
不安が疑心を招き疑心が更なる不安を招く。
「どなたのことを仰ているのですか?」
北条氏規は俺の言葉の真意を読み取ろうとばし考える様子だったが、俺に言葉の意味を聞き返してきた。意味が分からなかったのか。それとも分からない素振りをしているのか。それは俺に分からない。
俺は表情を緩め北条氏規を見た。
「私の勘違いだったようです。美濃守殿、先ほどの言葉はお忘れください」
俺は笑顔で北条氏規に答えた。北条氏規は落ち着いた様子で「そうですか」と短く答え、それ以上俺の話に触れなかった。そして、彼は清水吉久に目配せした。
「失礼したします」
清水吉久は俺に断りを入れ俺に目隠しをした。俺は来た時と同様に目隠しされた状態で彼の案内で大手門の外まで戻ることができた。既に日の光に橙に染まりかかっていた。俺が清水吉久に案内された頃が昼前だったから、思った以上に時間が経過している感じがした。
北条氏規と会い俺は確信した。織田信雄が城攻めを指揮続ける限り韮山城は落ちない。
俺は織田信雄に交渉の結果を報告するために本陣に向かった。
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