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トシサダ戦国浪漫奇譚
第一章 天下統一編
第十六話 決裂
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氏規は制止することはなかった。
 俺は北条家臣達に怒鳴られようと表情を変えず落ち着いた様子で北条氏規を見た。

「お言葉心に留め置きます」

 俺は素直に北条氏規の言葉を受け入れた。北条氏規は俺に対して頷き返事した。

「使者殿がお帰りだ。大手門まで丁重にご案内しろ。必ず丁重にご案内するのだぞ」

 北条氏規は俺をこの部屋まで案内した清水吉久に念押しして命令した。彼は殺気立つ北条家臣達のことを懸念しているのだろう。彼らの一人が暴走して俺を殺せば降伏の選択肢は無くなり徹底抗戦による玉砕しか道が無くなる。それは北条氏規の望むところではないのだろう。北条氏規は降伏の選択肢を残しておきたいと考えていることは確かなようだ。
 清水吉久は北条氏規の命令を受け俺に目隠しをしようとする。それを俺は制止し北条氏規を見た。

「相模守殿、まだ何かあるのですか?」
「美濃守殿、大した話ではありません。美濃守殿とお会いできる機会はそう多くはないでしょう。いくつか世間話させていただけないでしょうか? お時間は取らせません」
「世間話?」

 北条氏規は俺の突然の話に怪訝な表情を浮かべた。敵地で敵将と世間話をしようと言う俺が奇妙に映っているに違いない。北条家臣達も俺をそんな目で見ている。

「美濃守殿は徳川様とお知り合いとお聞きしました」
「幼少の頃、徳川様にお世話になりました。その後も徳川様には機会あるごとに縁を持たせていただいております」

 北条氏規は警戒しながらも俺が振った話題に嫌な顔をせず答えた。

「私も徳川様とはじっこんにさせていただいています。先月、徳川様が夕餉(ゆうげ)にお誘いいただきました。私が鷹狩りの経験がないと言うと機会があれば鷹狩りに誘おうとも言ってくださいました。徳川様は私のような若輩者にも目をかけてくださりありがたいです」

 俺の話に意外そうな表情に変わる。先程までと違い表情に穏やかさが現れていた。

「徳川様はご健勝であられるか?」
「お元気でございます。韮山城攻めに向かう前もお会いしております。美濃守殿のことを心配しているご様子でした」

 俺の言葉に北条氏規の表情が曇る。俺は嘘は言っていない。軍議の時に顔を合わせている。結局、軍議の後に徳川家康は俺に接触してくることは無かった。立場上、秀吉の甥である俺に北条氏規のことを頼むとは言えないからだろう。

「めざしが美味かったです」

 俺は徳川家康が振る舞った夕食を食べた時の記憶を思い出しながら感想を言った。普段が貧相な食事だから「めざし」でも十分にご馳走に感じた。最近は食事の度にそれを痛感する。
 北条氏規は俺の突飛な発言に要領を得ない様子だった。

「徳川様に夕餉に誘ってくださった時にめざしをご馳走になりました。塩加減が程良く
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