第一章 天下統一編
第十六話 決裂
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ありません。勝負ははじまる前から決まっていました」
俺の話に北条氏規の頬を冷や汗が一滴したたり落ちる。北条家臣達も俺の的確な指摘に言葉を詰まらせ沈黙していた。
「城主、松田康長は死亡。北条左衛門大夫殿は玉縄城に逃亡いたしました。美濃守殿、お心を決められるならば早い方がよろしいと思います」
俺はそこで言葉を切り手で相づちを打った。
「そうそう。山中城攻めに加わられた徳川様は足柄城を落とすために進軍している頃でしょう。徳川様のご活躍を関白殿下もお喜びのことと思います」
場の空気が静まり返っていた。俺は知っている史実を元に話し出した。この情報は未だ織田信雄の元まで来ていない。韮山城攻めに参加している武将達で知っているのは俺くらいだろう。
俺は落ち着いた態度で北条氏規を見据えた。北条家臣達の表情は優れない。
北条家と同盟を結んでいた徳川家康が豊臣家のために率先して北条の城を落とすことに協力している。心を乱さずには入られないだろう。徳川家康が北条家の味方でないことは北条家臣達は理解しているはずだ。だが、それを現実として突きつけられることは心を乱さずには入られないはずだ。なぜなら、現在の北条家当主、北条氏直、の正室は徳川家康の娘、督姫、だからだ。心の隅では淡い期待を徳川家康に抱いていたかもしれない。その期待を俺を打ち砕く情報を突きつける。
さりげなく毒を蒔くことが重要なことだ。相手の心を揺さぶることで徳川家康への信頼を少しずつ突き崩していく。そして、北条氏規が徳川家康を信じれなくなった時、頼ることができる相手は俺だけだと印象づける必要がある。
「貴殿に約束ができるのですか?」
北条氏規は徐に口を開いた。彼の表情は山中城が落ちたことを告げた時の動揺は消え落ち着いていた。
立ち直りが早い。思った以上に精神力が強いな。
「私は関白殿下より韮山城攻めにおける城将との交渉一切の権限を与えられています。私の判断は関白殿下の判断と思ってくださって問題ありません」
俺は落ち着いた物腰で北条氏規に返事した。彼は沈黙した。その目は俺を信じていない様子だった。
それが普通の反応だろうな。幾ら弁舌が上手くても十二歳の子供の発言を疑いもせず信用することは難しいだろう。それでも北条氏規が俺の話に食いついてきたあたり、彼は条件が整えば降伏する意思があると感じた。
「私は関白殿下の甥にございます」
俺を見る北条氏規の目の色が変わるのが分かった。俺は彼の気持ちを押すべく、自らが身に纏う朱地の陣羽織を示した。これには御門より秀吉に下賜された五七の桐紋が白糸で刺繍されている。
「この陣羽織は関白殿下から直々に下賜された物です」
北条氏規は陣羽織の袴の部分に刺繍された五七の桐紋を凝視していた。彼は食
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