第一章 天下統一編
第十六話 決裂
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るように訊いた。彼は俺を子供と侮っている様子は微塵も感じられなかった。相手を見た目で判断しない性分なのだろう。俺を露骨に侮る人物なら織田信雄も韮山城攻めで手をこまねくことはなかっただろう。
秀吉が北条氏規を高く評価した理由がなんとなく理解できる。同時に俺は北条氏規が豊臣軍に対して徹底抗戦を行い玉砕する覚悟はないように感じた。血の気が多い感じがしない。彼は冷静に損得を考え行動ができると思う。だが、北条一門として誇りはあるはずだ。北条征伐後に北条氏直に付き従い高野山で共に謹慎していた行動から見ても、節操なく降伏はしないだろう。
「その通りです」
俺が答えると、北条氏規はしばし間を置き口を開いた。
「敵同士の間柄である私に話とは何でしょうか?」
俺のことを値踏みするような視線を送ってきた。
「美濃守殿、城を明け渡してくださいませんか? 降伏してくだされば御身と城兵、その家族の身の安全は保障させていただきます」
俺は婉曲な物言いはせずに単刀直入に自分の気持ちを伝えた。当然のことながら、この場所に居る北条家臣達は烈火の如く怒り俺を罵倒してきた。俺を罵倒する大声のせいで耳が痛い。
「勝っているのは我らだ! 何故、お前達に降らなければならない!」
若い血気盛んそうな侍が俺に喧嘩腰に叫んできた。若いと言っても俺より八つ位は年上、二十歳位だろう。
「静かにしろ」
北条氏規が俺に息巻く若い侍を低い声で注意し黙らせた。彼に注意され侍は渋々黙ったが俺を睨みつけていた。この遣り取りで他の北条家臣達も俺を罵倒するのは止めた。先程の喧騒が嘘のように部屋が静まりかえった。この部屋の周囲に人がいないように感じた。俺を何時でも始末できるようにに足軽達を部屋の外に配置している可能性はあり得る。
「山中城は一昨日落ちました」
俺の突きつけた事実に北条家臣達は俺を嘘つき呼ばわりして罵りだした。山中城が一日で落城したことが余程信じられない様子だった。だが、これは事実だ。
「私が嘘をつく理由がございません」
「信じることはできませんな」
北条氏規は俺に冷静に答えた。
「山中城は防備を強化する準備が整っていませんでした。だが、それでも山中城の防備ならば豊臣本隊七万の軍勢にも耐えることができたでしょう。籠城する兵が十分な数であったならばですが」
俺は余裕に満ちた表情で北条氏規を見据えた。彼の表情が厳しい顔に変わった。彼は俺が何を言わんしているか直感しているようだ。
「山中城は北条家本拠地、相模国、から大軍の侵入を阻むために作られた堅城。その目的のために城につめる城兵の数は一万以上を想定しています。その城を四千足らずの兵で守れば、いかに堅城とはいえ城の周りを取り囲む七万の軍を阻めるわけが
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