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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第三十三話 イゼルローンにて(その3)
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白い男だ……、キスリングの事は心配するな。この俺が確かに預かった」
「感謝します」

「さて、次は卿の処遇だな」
「覚悟は出来ています。ただお願いが有ります。この二人を帰してほしい」
「大佐!」
「ヴァレンシュタイン大佐!」
両脇の二人が抗議の声を上げた。

「この二人は情報部なんです。私が帝国に同盟の情報を漏らすのではないかと恐れている」
「何を言うんです、そんな事は」
女が抗議した。

「だから私を殺したら彼らを帰してほしい。私がスパイではないと証明してくれるでしょう」
「馬鹿なことを、そんな事は誰も思っていない。いい加減にしろ! 大佐!」
今度は男が抗議した。

「お願いです、大佐を殺さないでください。大佐は帝国と戦いたくなかったんです」
「止めなさい、ミハマ大尉」
女が身を乗り出して命乞いを始めた。ヴァレンシュタインは顔を顰めている。

「私達が大佐を戦争に引きずり込んだんです。悪いのは私達なんです」
「止めなさい!」
「……」

ヴァレンシュタインが微かに苦笑を漏らした。
「リューネブルク准将、女と言うのはどうにも面倒な生き物だと思いませんか?」
「同感だが、何故俺に訊く」
「女運が悪そうだ」

オフレッサーが吼えるように笑い声を上げた。リューネブルクもヴァレンシュタインも苦笑している。一瞬だが和やかな空気が流れた。戦場とは思えないほどだ。だがヴァレンシュタインの言葉に和んだ空気が固まった。

「ミューゼル准将、私を殺しなさい」
「……」
「准将には私を殺す理由が有る、そうでしょう」
淡々とした声だった。ヴァンフリートの事を言っているのか、それともキルヒアイスの事を言っているのか……。

「戦争だからなどと言い訳はしない。私は皆殺しにするつもりで作戦を立てた……。ジークフリード・キルヒアイス、ラインハルト・フォン・ミューゼル、ヘルマン・フォン・リューネブルク、皆殺すつもりだった。だが失敗した……」

「運が良かった。後三十分、本隊が来るのが遅れれば私は死んでいた」
嘘偽りなくそう思う。後三十分、反乱軍に余裕が有れば俺は死んでいた。そしてリューネブルクも捕殺されていただろう。

「運じゃありません、実力です。私の計算ではあと一時間早く第五艦隊が来るはずだった、だが遅れた……。やはり私は貴方には及ばない、だから貴方は此処にいる。私が此処で死ぬのも必然でしょう」
彼の声に悔しさは感じなかった。ただ淡々としていた。この男がキルヒアイスを殺した、そう思ったが実感が湧かなかった。俺が勝った、それも思えなかった。

「ミューゼル准将、受け取って欲しいものが有ります」
「……」
「私の胸ポケットを探って欲しい」
どうすべきか迷った。だがヴァレンシュタインには敵意は感じら
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