第五章
[8]前話
「丁度つうがいなくなった時」
「その時に」
「遠くの山に」
「行っていたんですか」
「勘兵衛さんが四日前にいたっていうからな」
その山にとだ、茂吉は二人にさらに話した。
「相当に離れてるな」
「わし等も滅多に行かない」
「猟師の藤太さんでもない限り」
「そんな山まで、ですか」
「つうは行ってたんですか」
「気付いたらいたらしい」
茂吉は二人にこのことをあらためて話した。
「不思議な話だな」
「はい、本当に」
「気付いたらそんなところにいたなんて」
「一瞬でそんな場所に行ける」
「そんなことがあるなんて」
「そうしたこともあるのか」
茂吉は二人に腕を組み考え込む顔で言った。
「わからないな」
「本当にそうですね」
「このことは」
「ああ、しかしな」
わからないことだ、つうが何故一瞬でそこまでしかも彼女が絶対に知らない様な場所まで行ったのかが。だが。
それでもとだ、二人に言うのだった。
「つうは戻って来たぞ」
「はい、確かに」
「こうして」
「お父、お母、会いたかったよ」
つうは二人に心から言った。
「四日の間勘兵衛さん凄く優しかったけれど」
「わし等もだ」
「本当に心配したんだからね」
「何処で何をしてるか」
「気が気でなかったよ」
「何はともあれこれで一件落着か」
茂吉は三人で抱き合う親娘を見て安堵の息を漏らした。
「では勘兵衛さんと商いの話をしに行くか」
「はい、じゃあ後でわし等も」
「勘兵衛さんと」
「お礼もしたいですし」
「是非」
夫婦もこう言う、実際に二人は勘兵衛に商いの話の前にお礼をして出来る限りの謝礼を贈った、そして再びつうと三人で親しく暮らした。
こうした話がある場所に残っている、つうは何故一瞬で彼女が知らない場所にまで移ったのかわからない。謎と言えばまさに謎だ。つうは助かったが若し勘兵衛と会わないとどうなっていたか。
つうは幸いにして助かったが謎は謎のままである。神隠しと言われているが実際はどういうことかわからない。あまりにも不思議で訳がわからず妙な話だと聞いていて思った、それ故にここに書き残した。読んで頂ければ幸いである。
神隠し 完
2016・10・13
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