第六章
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楽しんで吸っている、それで悪魔達は思うのだった。
「失敗かのう」
「そうやもな」
「煙草は広まりはしたが」
「楽しんで吸われてはならん」
「癖になって吸って欲しいのに」
「楽しまれてどうする」
「それではどうにもならんわ」
彼等は落胆して言い合った、だが。
ガギエルはマミエルにだ、こうも言った。
「しかしここはよい国じゃな」
「うむ、面白い国じゃ」
「飯は美味いし風俗は独特でな」
「人も愛嬌がある」
「それではな」
「ここにおるか」
「そうするか」
日本に留まろうというのだ。
「煙草を売り続けてな」
「少なくとも健康は害しておる」
「身体に悪いのは事実じゃ」
「ではな」
「このまま煙草を売りつつじゃ」
「この国におろうぞ」
「そして美味いものを食ったりしてやっていこうぞ」
煙草のことは彼等の狙い通りにはならなかったにしてもだ、それでもというのだ。彼等はとりあえずはだった。
日本で暮らすことにした、そうして歳月が経ち。
煙草屋で煙草を売ったガギエルは客に言った。
「お客さん今日もやな」
「ああ、これを吸ってや」
面長で細めの男だ、黒髪を真ん中で分けた和服を粋に着た男である。
「また書くや」
「小説書いてるらしいな」
「書いてるで、どんどんな」
「それは何よりやな」
「煙草吸うてヒロポン売って」
見れば客はそちらも買っていた、煙草だけでなく。
「そんでや」
「書いてるんやな」
「書かんとな」
男はここで咳をした、仏の咳ではなく何か不吉な感じのするものだった。
「作家はな」
「あかんか」
「そやからな」
だからだとだ、男は老人の姿の悪魔にさらに話した。
「今日も買わせてもらったで」
「おおきにな」
「ああ、ほな自由軒で煙草も吸って」
「カレーも食べて」
自由軒のその名物カレーもというのだ。
「書きますか」
「そうするわ」
こう言ってだ、男は煙草屋を後にした。ガギエルはその男の背を見送ってから傍らにいたマミエルに言った。
「あの人もそうやし」
「昔の西鶴さんや門左衛門さんもな」
「煙草吸うてな」
「それから書いてるな」
「意気揚々とな」
煙草を吸って気分転換をしてというのだ。
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