第一章 天下統一編
第十五話 使者
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に声をかける者がいた。俺が声が聞こえた方向に視線を向けると福島正則が顔を上げてこちらを見ていた。
「左衛門尉、お前も私の意見に不服か?」
織田信雄は不機嫌そうに福島正則を見た。福島正則は織田信雄の剣幕に怖じ気づく様子はなかった。彼は沈黙しながらも織田信雄を威圧するような目で見ていた。織田信雄は一瞬怯むが睨み返した。
「内大臣様、不服はございません。韮山城へ相模守を使者として出向かせるというならば、私も付き添いとして同行させてください」
「ならん」
織田信雄は福島正則の頼みを一蹴した。織田信雄は俺に嫌がらせをしたいのだろう。孤立した敵陣で一人で敵と交渉する。並の大人でも不安な役目だ。交渉できずに敵に見せしめとして殺される可能性もある。
北条氏規が使者を害する過激な行動に出るとは思えないが、城中の侍が暴走して俺を殺すことはあり得る。俺は、それを十分に理解していた上で、この役目を引き受けるつもりでいる。俺の策で城を落とす前に、俺の策の勝率を上げるため、北条氏規に会っておく必要がある。これを逃せば北条氏規に会う機会は城を落とす時になる。それでは遅い。
「左衛門尉様、お心遣いありがとうございます。ですが、心配はご無用にございます。私は役目をしっかりと果たします」
「相模守、お前は使者の役目がどんなものか分かっているのか?」
福島正則は厳しい表情で俺を見据えていた。その様子から俺のことを本当に心配しているように見えた。
「分かっています。使者として単身出向くことも、戦場にて槍を振るうも命掛けです。戦場に家臣達を送り出す私が使者の役目を拒否することなどできましょうか。関白殿下から役目を申しつけられた時に覚悟はできています」
俺は落ちついた面持ちで福島正則に答えると、福島正則は黙り俺のことをただ見た。
俺は秀吉と命の駆け引きをした時に死にかもしれないことを覚悟した。だから、織田信雄の命令を拒否するつもりはない。ここで役目を放棄して何もせずに全てを放棄をするつもりはない。秀吉が何で俺に失敗したら腹を切れと言ったか今なら分かる。命をかけるべき場所でかけることができない者は立身など夢のまた夢だからだ。秀吉が俺のことを想ってやったことか分からない。でも、そう受け取っておこうと思う。今、俺は自分の死を恐れること無く使者の役目を受けることができているのだから。
「覚悟はできているのだな」
福島正則は目で「頑張って役目を果たせ」と言っているような気がした。
「相模守、その心意気大義である。使者の役目を申しつける。期日は明日一日のみとする。よいな」
織田信雄は勝ち誇ったように意地の悪い笑みを浮かべると俺を睥睨した。
「かしこまりました」
俺は平伏し織田信雄の命令を受けた。
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