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女の執念
第六章

[8]前話
「女房殿は成仏しました」
「そうですか」
「その嫉妬の念は消えました」
「だからですね」
「蛇もいなくなりました」
 お幸が変化したそれはというのだ。
「もう二度と現れません」
「それは何よりです」
「はい、しかし」
 法然はここでこうも言った、深刻な顔になり。
「恐ろしいことですね」
「全くです」
 法善も法然の言葉に応えて言った。
「人の嫉妬が死して尚残り」
「蛇になりまとわり付くとは」
「まことに恐ろしいことです」
「それだけ人の念が怖いということでしょう」
 まさにとだ、法然も言った。
「嫉妬も然り」
「まことに」
「ですが」
 それでもとだ、法然はここでこうも言った。
「御仏の力ならです」
「その念も祓って頂ける」
「そういうことですな」
「ですな、ではお礼に」
 成吉はここでだ、自分を助けてくれた法然にあらためて言った。
「少ないですが銭を」
「いえいえ、これは当然のことですから」
「だからですか」
「はい」
 成吉ににこりと笑って述べるのだった。
「いりません」
「そう言われますか」
「お気遣いなく」
 このことは一切というのだ。
「そうされて下さい」
「左様ですか」
「はい、では女房殿にはです」
 成仏した彼女にはというのだ。
「お墓参りを欠かさずに」
「そうさせて頂きます」
「はい、そうされれば奥方様も喜ばれます」
「あの世で」
「ですから」
「わかりました、確かに嫉妬深い女でしたが」
 それでもとだ、成吉はお幸のことを思い出しつつ話した。
「それでもわしを好きだったことは確か」
「だからです」
「墓参りも供養も欠かしませぬ」
「そうして頂けると何よりです」
「ではです」
 法善は成吉と法然の話が終わったところで成吉に声をかけた。
「村に戻りましょう」
「それでは」
「お達者で」
 法然は村に帰る二人に穏やかな声を送った、二人はその法然に別れとお礼の挨拶をして村に帰った。成吉の首から蛇がなくなったことを喜んで。
 この話は昔から高知に伝わる話だという、法然上人の逸話の一つである。ただ法然上人がそうしたのかどうかは実はよくわかっていない。時代が違う場合もあるし上人ではなく別の高僧が行ったという話になっていることもある。しかし女の嫉妬が死して蛇となったことは変わりない。それを考えると嫉妬の念の怖さがわかる。死してもまだ蛇に変化して残るのだから。


女の執念   完


                       2016・12・19
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