第一章
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仇を討つ
織田信長はこの時四面楚歌になっていた。まずは浅井と朝倉が敵になりそのうえ一向一揆まで起こっていた。しかも武田の動きも気になっていた。その中でだ。
岐阜にいる彼の下にある報せが届いた。その報せはというと。
「何っ、彦七郎がか」
彼の弟の一人だ。彼が小さい時から可愛がり不覚信頼していた。その彼がだった。
「まことじゃな」
「はい、古木江城において」
報せるその家臣が頭を下げたまま述べる。
「伊勢の一向一揆に襲われあえなく」
「何ということじゃ」
信長は歯噛みして呟いた。
「あ奴はよい奴じゃった」
「はい・・・・・・」
「わしによく懐いておった」
うつけ者と呼ばれた若き日の信長は多くの者に疎まれてきていた。しかしその信興は違っていたのである。
彼を慕い懐いていた。信長もよく可愛がった。弟を殺したこともある信長だが信興についてはそうしたことは考えもしていなかった。
それで伊勢、まだ統治が充分でないその国の抑えの一つとして古木江城を任せた。だがその彼がだというのだ。
「あの連中に殺されたとな」
「天守に登られ自害されました」
まずは武士として潔い最期と言えた。
「一揆の輩共の手にかかるよりはと」
「わしも他の者もな」
信長は彼にしては珍しく悔恨の念を露わにして述べた。
「今はのう」
「はい、今織田は周囲に敵を置いております」
「兵はやれんかった」
全てはそのせいだった。信興を失ったのは。
「無念じゃ。一向宗にやられた」
「殿・・・・・・」
「無念じゃ。しかしじゃ」
「しかしとは」
「忘れぬ」
信長は俯いてはいなかった。それどころかだった。
顔を上げて目を怒りで燃え上がらせてだ。こう言ったのだった。
「このこと。浅井も朝倉も倒してじゃ」
「そのうえで、ですか」
「一向宗め、覚えておれ」
信長は言った。
「このこと、決して忘れぬわ」
こう言ってだ。信長は弟の死を悼み怒りをたぎらせた。それからだった。
武田信玄が死ぬとすぐに浅井と朝倉を滅ぼした。そのうえで一向宗征伐に本格的に取り掛かることになった。
伊勢に出陣する時にだ。彼は集められるだけの大軍を集めその上で将兵達に告げた。
「よいか、一向宗には容赦するな」
「はい、一切ですな」
「容赦せずに」
「斬れ」
これが信長の言葉だった。
「助命はするな」
「しかし一向宗には女子供もいますが」
家臣の一人が信長に問うた。
「それでもですか」
「構わん」
信長はその家臣に即座に答えた。
「例え女子供であろうともじゃ」
「一向宗ならばです
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