第一章
[2]次話
止められない
豊臣秀吉が死にその跡を子の秀頼が継ぐことになった、しかし秀頼は僅か六歳であり政を見られる筈もなく彼の母である茶々が実質的に豊臣家の主となった。
だがその茶々を見てだ、藤堂高虎は苦い顔で言った。その細面の鋭い表情をそうさせて。
「これは駄目じゃ」
「駄目とは」
「どういったことでしょうか」
「豊臣家は終わりじゃ」
藤堂は大坂の藤堂家の屋敷で彼の家臣達に言ったのだった。
「最早な」
「それはどうしてでしょうか」
「豊臣家が終わりとは」
「それは何故」
「お拾様はご幼少じゃな」
藤堂は自分の言葉にいぶかしんだ家臣達に話した。
「そして実質的には母君である茶々様が主じゃな」
「はい、そうですが」
「何しろお拾様のご生母なので」
「そうなっています」
「必然的に」
「そうじゃな、しかしじゃ」
それでもというのだった。
「あの方は非常に勘気が強い方じゃ」
「そうなのですか」
「我等はよく知りませぬが」
「そうした方ですか」
「思えば織田様の姪御じゃ」
織田信長、彼のというのだ。
「それも当然じゃ」
「お母上のお市様は穏やかな方でしたが」
「そのご気質は織田様のものですか」
「上総介様の」
「そうじゃ、だからな」
叔父である信長の気質を受け継いでいるというのだ。
「それが強い、しかもそれが悪く出ておる」
「上総介様のそれが」
「強い勘気がですか」
「悪く出ている」
「そうなのでした」
「上総介様はまだ己を抑えられた」
勘気が強かったのは事実だが、というのだ。
「だからあそこまでなれた、しかし」
「茶々様は」
「あの方は」
どうかというと。
「それが出来ぬ方」
「ただ勘気がお強く」
「それだけの方ですか」
「しかも世間知らずじゃ」
藤堂はこのことも指摘した。
「何もご存知ない」
「政のことも世のことも」
「何もかもですな」
「そうした方が豊臣家の主になられる」
実質的なそれにというのだ。
「これでは危うい、いや間違いなくな」
「どうなるか」
「最早、ですか」
「止められる者がいるとすれば」
それはというと。
「治部か刑部となるが」
「しかし治部殿は」
「最早」
家臣達はその治部、石田三成のことを言った。彼のことはそれこそ誰でも知っていることである。最早天下の誰もがだ。
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