第三章
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「心当たりがあるか」
「はい、実は」
「そうか、やはりな」
「それではです」
「うむ、頼めるな」
「この話それがしが収めます」
こう継政に言った。
「必ずや」
「ではすぐに頼めるか」
「新月の子の刻ですな」
「そうじゃ、川のほとりに出て来る」
城下町のそこにというのだ。
「場所もわかったな」
「確かに」
「では後は頼んだ、何なら人をつけるが」
「藩主の方を」
「そうしてもよいか」
「殿がそうされるというのなら」
市兵衛は静かな声で答えた。
「お願い申す」
「それではな」
「はい」
こうしてだ、市兵衛は岡松作左衛門景職という若い藩士を付けられたうえで新月の日まで城下町の神社の一つに厄介になりつつ時を待った、そしてだった。
新月の夜にだ、共にいた作左衛門に言った。
「それでは」
「今からですな」
「参りましょう」
こう作左衛門に促した。
「宜しくお願いします」
「こちらこそ、しかし山伏殿」
「何でありましょうか」
「お話は聞きましたが」
神社の境内を共に歩く市兵衛にだ、作左衛門は言った。
「山伏になられた訳は」
「二十年以上前ですが」
「それ程昔のことですか」
「左様です」
市兵衛は作左衛門に重い声で答えた、歩きつつ。
「それで思うところがあり」
「山に入られて」
「修行を積み今に至ります」
山伏、それになったというのだ。
「この通り」
「そうなのですか」
「あの時はあまりにも辛く」
妻と子を失いだ。
「逃れたくて山に入りましたが、ですが」
「ですが?」
「逃れられませぬな」
「逃れられぬとは」
「いえ、こちらの話です」
ここから先は言わなかった。
「お気になさらぬ様」
「左様ですか」
「では川のほとりまで」
「行きますか」
「そしてことを収めます」
市兵衛はこう言ってだ、作左衛門と共にだ。
町を流れる川のほとりまで来た、川の傍には柳が並んでおり人一人いない。月がないので灯りもなく真っ暗だ。
町の火もなくだ、作左衛門はその暗がりの中を見回しつつまた市兵衛に言った。
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