第一章
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産女異伝
江戸時代中頃、享保年間の備前の話である。岡山の城下町に奇怪な噂が流れていた。
夜になると一人の女が出て来るがその女は赤子を抱いていて赤子を抱いてくれる様に出会った者に言って来る。しかしだ。
その赤子を抱くと赤子はまるで石か鉄の様に重くなり挙句には赤子を抱いた者をその重さで殺してしまうというのだ。
その話は岡山藩の藩士達の間でも有名になっていた、それでだ。藩士達もこの話について顔を見合わせて話していた。
「まことであろうか」
「うむ、実際にいるらしいぞ」
「川のほとりで出るらしい」
「それも新月の子の刻限だとか」
「力のありそうな者が川のほとりを歩いていると出て来るらしい」
「黒いざんばら髪で死人の様に白い顔をした不気味な女だとか」
その女の話も出た。
「白い死装束の様な服を着ておるとか」
「そして手に抱いておる赤子を抱かせてくる」
「その赤子が次第に重くなってな」
「石か鉄の様に重くなり」
「そしてその重さに押し潰されて死ぬ」
「女はその死ぬ有様を見て恐ろしい笑みを浮かべておるとか」
「まこと恐ろしい話じゃ」
こうしたことを話していた、それで力のある者達は我こそはと出てそのうえでその女が何者かそしてあやかしか何かであれば成敗しようという話になっていた。
しかしその状況を見てだ、家老達が彼等を止めた。
「行ってはならん」
「それは何故ですか」
「何故でしょうか」
岡山藩の腕に自信のある者は彼等に告げたその家老に問うた。
「力試しは武士ならば当然のことでは」
「そして武士ならば人を殺める者を成敗するのが務め」
「何故それをするなと言われるのか」
「わかりませぬ」
「武士ならば軽挙はするものではない」
こうだ、家老は藩の腕のある者達に言った。
「ここは慎め」
「しかしそうすればです」
「その話をどうして収めるのか」
「それが問題ですが」
「一体どうするのか」
「そのことは」
「既に殿がお考えじゃ」
藩主である彼がというのだ、彼等にとっては主であり絶対の者がだ。
「ここは殿にお任せせよ」
「殿がですか」
「そうですか、殿がそうされるのならば」
「我等は異存ありませぬ」
「殿がそう仰るのなら」
「我等は従うのみ」
「そうせよ、この件は殿のお考えで決まって終わる」
そうなることも約束するのだった。
「その終わりの顛末までを見よ」
「わかりました」
こうしてだ、岡山藩の武士達は騒ぎを自分達で抑えてだった。ことの顛末を見届けることにした。藩主の池田継政は名君として知られている男でありその女の話を聞いてすぐにその細面で髭の剃り跡が顎や口元に目立って残っている白い顔で言った。
「それは産女であろう」
「産
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