第一章
[2]次話
刑部の潔白
大谷刑部吉継は業病を病んでいた、その病は日増しに酷くなり彼も周りもどうしていいのかわからなかった。
しかし大谷は顔をずきんで覆ってだ、彼の家臣達に言った。
「こうなったことも天命であろう」
「だからですか」
「仕方がない」
「そう言われます」
「治るに越したことはないが」
それでもというのだ。
「これもまた天命だからな」
「受け入れられる」
「そうされますか」
「このまま」
「そうだというのですね」
「うむ」
その通りというのだ。
「そうする」
「左様ですか」
「そうされますか」
「ではこのまま病が重くなられようとも」
「治らずとも」
「薬は飲むがな」
実際にそうしてはいる、大谷にしても。
「しかしこの病で死のうともだ」
「天命として受け入れられる」
「殿はそうされますか」
「うむ、そうする」
実際にとだ、大谷は答えてだった。自身の病のことを受け入れていた。その彼をいつも友である石田三成や主君の豊臣秀吉はいたわっていた。
秀吉は何かあるとだ、大谷を呼び彼に妙薬を差し出して言った。
「桂松、これを飲め」
「これは高麗人参ですな」
「そうじゃ、これを飲んでな」 116
そのうえでというのだ。
「病を治せ」
「それがしの業病を」
「そうせよ、御主はわしにとって大事な者の一人じゃ」
それ故にというのだ。
「これで治らずともな」
「その時もですか」
「別の妙薬を取り寄せる」
そして彼に飲ませるというのだ。
「だからな」
「それでは」
「飲んで治せ」
「そうさせて頂きます」
大谷は恐縮してだ、その高麗人参を受け取り飲んだ。だが彼の病は治らず日増しに酷くなっていった。その彼について何処からかおかしな噂が出ていた。
大谷自身がその噂を聞いてだ、いぶかしんで言った。
「馬鹿な、わしはその様なことはだ」
「はい、されませぬ」
「殿はその様なことはされませぬ」
「業病が治ると聞いて夜な夜な辻斬りなぞ」
「その様なことは」
「戦の場で敵を倒すならともかくその様なことをして何になる」
辻斬りに対してだ、大谷は忌々しげに言った。
「だからじゃ」
「その通りです」
「何故殿がその様なことをされるのか」
「噂にしても酷いものです」
「性質の悪い噂です」
「その様なこと、断じてせぬ」
大谷はまた言った。
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