ターン71 鉄砲水と優しき闇
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扉をくぐると、そこには異世界が広がっていた。
まあ、そんな気はしてた。というか見えてたし。そこは先ほどまでの山の中とはまるで違う、かすかに霧のかかった薄暗い世界。周りを見回してみると、どうやら随分と高台にいるらしい。そして目の前には巨大な城らしき建物と、覇王城前の闘技場を彷彿とさせる円形の舞台。これがユベル城、か。
円形の端にはヨハンの体を乗っ取ったユベルが立っていて、何を考えているのかイマイチわからない笑みを浮かべながらきょろきょろと周りを見回す僕を見ていた。
「この場所に人間を招いたのは、君が初めてだよ。もうすぐ十代も来るだろうけどね」
特に返事を求めるという風もなく、ユベルが独り言のように喋り出した。この、僕がここにいるすべての元凶に対して言いたいことは山のようにあるが、いざ対面すると何から話せばいいのかよくわからない。黙ったままの僕にお構いなく、一方的に話し続ける。
「十代が来るまで、もう1時間とかからないはずだ。もし時間がある時なら、暇つぶしに君と遊んであげてもよかったと思っているんだよ?だけど、ボクは彼を歓迎する準備をしなくてはならないんだ。君はなかなか興味深い存在だけれど、あくまで十代と比べなければの話だからね」
ユベルの話の雲行きが怪しくなってきたあたりから、用心して動きを悟られないようにデッキに手を伸ばしておいた。なるべくさりげなく、ゆっくりと手を後ろ手に組む。自分の演説に夢中なユベルが僕の動きに気づかないでいるうちに、そっとカード1枚を手の中に滑り込ませた。
少し用心しすぎな気もしたけれど、相手はこれまで散々なことをやってくれた大迷惑者だ。そして案の定、その豹変は一瞬だった。
「だから……もう消えな!」
ヨハンを乗っ取ったユベルのオッドアイが突然光ると、足元の床をぶち抜いて巨大な茨が蛇のように僕に襲い掛かる。不意打ちならどうしようもなかったけれど、あらかじめ心の準備をしておいた分だけ僕にもリアクションを起こす余裕があった。
「霧の王!」
手の中のカードを掲げると、相棒とも呼べる霧の魔法剣士が傍らに実体化する。銀色の剣閃が煌めき、寸断された茨のかけらが足元にバラバラと崩れ落ちた。
だけど、そこまでだ。僕には、ここからさらに霧の王をけしかけて反撃するなんて道は選べない。目の前にいるのはユベルだが、その体はヨハンの物であることを忘れてはいけない。それに、あのウラヌスの不可解なやられ様はまだ記憶に新しい。一体何をどうすれば、あんなことになるのか。その謎を解かない限り、下手に動けない。
「フン……」
ヨハンの体を乗っ取った影響か、それともこのユベル城の世界にそういう作用があるのか。ありがたいことに、ユベルにも今の茨攻撃以外には打つ手がないようだ
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