番外編:殺人鬼の昔話2 下
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たのか、畳ごと床板を踏み割らんとする勢いで左足を前に進ませつつ大上段に振り上げる。その構えに応じてかラシャの右手が光に包まれ、無骨な刀が現れた。
微塵になれと言わんばかりに脳天目掛けて叩きつけられた一撃を、ラシャは不動のまま、手の刀をまるではたきを振るうようにして逸らせた。柳韻の眼が驚愕の色に塗りつぶされた瞬間、ラシャの刀が半ばまで喉を貫いていた。一刀流系列に伝わる極意、『切落し』と呼ばれる一手が決まったのだ。
「ラ……シャ」
口から血泡を吹きつつ、手首を失った柳韻の右腕が喘ぐように空を掻いた。傷口から噴き出た血が、失くした手指の代替のように宙を泳ぐ。
しかし、ラシャは刀から手を放すと、飛び立たんとする猛禽の様に両腕を広げた。その掌に無数の光の粒子が乱舞したかと思うと、様々な凶器が形を成して現れた。
「かあっ!!」
憎悪を込めた掛け声とともに、柳韻の脾腹目掛けて短刀が深々と突き刺さった。そこからは矢継ぎ早且つ箇所を問わず、刀剣類から工具に至る様々な刃が海中に臨まんとする鳥の群れのごとく叩きつけられた。ラシャは柳韻の消え行く生命の最後の一瞬までをも、苦痛で埋め尽くし続けたのだ。
そして、柳韻の肉体が最後の命を吐き尽くした時、ラシャの手は初めて止まった。
数分後、街は蜂の巣を突いたような大騒ぎに沸いていた。街の顔たる篠塚こと柳韻の屋敷が大火に包まれるだけでなく、篠塚自身の行方が杳として知れないからである。
何人もの市民が燃え盛る屋敷に飛び込み、救出を試みようとするも、屋敷を飲み込む炎は何人たりとも受け付けず、夜が明けても尚空を焦がし続けていた。消火作業が完了した時は既に正午を回っており、屋敷の焼け跡から遺体の類が見つからなかった事が判明したのは更に日を跨がねばならなかった。
何故焼けたのか。そして、家主は何処へと消え失せてしまったのか。街人は様々な憶測を並べ立てたが、事態は決して好転することはなかった。更に、都心から急遽呼ばれた警察の特別捜査員を含めた大捜査線が展開されたが、容疑者の割り出しさえも叶わずに、いち早く捜査は暗礁に乗り上げたという。
同時刻、地球の何処か。
闇を押し固めたかの様な空間を、ディスプレイの明かりが切り裂いた。その光源に刺激されたのか、暗闇の一角が動きを見せる。ひたり、ひたりと裸足が床を踏みしめる音が響くと同時に、目元に濃い隈を浮かべた少女が椅子に身を投げ出す。
半分覚醒しきってないのか、行儀の悪い座り方をしながら指をキザに鳴らす。同時に周囲から様々な光が浮かび上がると、闇一色だった空間は灰色の研究室へと変貌した。周囲には所狭しと機材が並べられ、床には時に乱雑、時に整頓されて部品やメモが散らばっており、部屋の主の脳内の無法振りを顕著に表していた。
部屋の
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