襲撃
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すと、エイジは片手剣を鞘にしまい込んで、こちらに背を向けて歩き出して行った。まるでこちらに興味がないようなその後ろ姿に、背後から一撃を加えたくなるような衝動に駆られるが、恐らく太刀打ち出来ないだろう。先の戦闘からそれぐらいは分かっており、エイジが何を目的としていたのかは分からないままだが、見逃してくれるならありがたい。
「……ああ、でも最後に。ユナのことを教えましょう」
ピタリ、とエイジは立ち止まると、大袈裟にこちらに振り向いた。今日はもう戦う気はないということか、オーディナル・スケールを解除して端末をポケットにしまいながら、憎しみの感情を込めた視線でこちらを射抜く。
「――お前があの浮遊城で殺したプレイヤーの名さ」
「――――」
最後にそれだけ言い残すと、今度こそエイジは闇の中に消えていく。だが悠然と歩いていくエイジとは対照的に、今度はこちらの動きが止まる番だった。
「殺した、プレイヤー……?」
無意識に、俺は自分の手を眺めていた。あのデスゲームにおいて、確かに俺は誰かを殺めたことはある――ただ、殺めた感触が手に残っているのみで、いつ、誰を殺めたのかは記憶にない。弱い自らが記憶を思い返して自壊しないように、自らで記憶に蓋をしているのだ。
「ユナ……?」
――その殺したプレイヤーの名が、ユナだというのか? エイジは浮遊城時代の仇討ちにでも来たというのか? まるで答えのでない問いの無限ループに陥りかけた時、現実に戻れとばかりに身体の節々が痛む。
「ふぅ……っつ」
内心で疑惑が渦巻きながらも、息を吐きながら壁に背中を預け、こちらもオーディナル・スケールを解除する。日本刀《銀ノ月》が端末に、戦闘用の制服が私服に戻っていくが、エイジに蹴りを入れられた腹はひしひしと痛むままだ。
「忘れられた気分……ユナ……?」
コンクリートに打ちつけられた背中と、蹴られた腹の痛みはARではないというのを改めて実感しながら、エイジの語っていたことを反芻する。ユナというプレイヤーのこと、そして――愛する者に忘れられた気分、まだ分かっていないのか、ということ。
『あんた……SAOの記憶、失ったらどうする?』
――そして脳裏に去来したのは、先日、リズから聞いたそんな言葉だった。そのまま彼女が浮遊城を見て回っていて、SAO記録全集を読み進んでいたことをも思い返して、まるであのデスゲームの時のことを懐かしんでいるようだと。
「まさ、か……」
今、リズがどんな状態になっているか、ある可能性に思い至る。そしてそれは……多分、正解だった。
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