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お江戸
第一章

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            お江戸
 花のお江戸は日本晴れ、太之助はその江戸の中で今は蕎麦を威勢よく噛まずに一気に音を立てて飲み込んでから連れの権太に言った。
「金も時間もある、だったらな」
「江戸位だな」
「いい町はないな」
 こう整った顔で言う、見れば着ている服は助六そのままだ。あえてそうしているのだ。
「本当にな」
「言うな、大店の次男坊は」
「そう言う御前さんもだろ」
 太之助はこれまた整った顔の権太に言った、権太の格好は坊主のものだ。頭も奇麗に剃っている。
「名刹にいるだろ」
「ああ、そこのな」
「実はってな」
「住職の子だからな」
 表向きは住み込みの修行僧だがだ。
「それで小遣いはな」
「ふんだんに貰えてるだろ」
「銭に困ったことはないさ」
 権太は笑って太之助に応えた、彼も店でせいろを威勢よく食っている。
「一度もな」
「俺もだろ」
「そうした人間にはだよな」
「ああ、こんないい町はないな」
 こう権太に言う、店の中で蕎麦を食いつつ。
「だから問題はな」
「遊び方だな」
「そりゃ商いもあるさ」
「俺は修行もな」
 二人共家のことは忘れていない。
「ちゃんとな」
「それもしつつな」
「粋に遊ぶだな」
「遊ぶ時はな」
 その時はまさにというのだ。
「それで今もこうしてだよ」
「蕎麦食ってるな」
「そうだよ、しかもな」
「蕎麦の食い方だな」
「こうだよ」
 太之助はこれみよがしに蕎麦を勢いよく音を立ててすすってそうして飲み込んでから権太に話した。
「一気にすすってな」
「噛まずに飲み込む」
「これが粋な食い方ってやつだ」
「そういうことだな」
「派手に遊んで後には残さない」
「遊び方もだよな」
「そうするんだよ、未練とか卑怯とかな」
 そういうものはというのだ。
「江戸っ子のすることじゃねえんだよ」
「そういうことだな」
「おめえもそのことはわかってるだろ」
「こっちも代々ここにいるんだぞ」
 権太も蕎麦を勢いよく音を立ててすすり喉ごしを楽しんでから答えた。
「それこそな」
「だったらだな」
「ああ、遊ぶ時は一気に派手にだよ」
「風呂に入るみたいにな」
 熱いそれにだ。
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