暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
OVA
〜紺色と藍色の追復曲〜
此の時彼の場所で
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随分と会ってない事によって生じる差異だと思っていた。

だが違った。

おかしかったのは、最初から小日向相馬のほうだったのだ。

それを確信した少女は、意を決したように口を開く。

「ねぇ、ソウ君。……君、本当にソウ君?」










不気味な、沈黙があった。

相馬の表情は変わらない。危険な感情の渦に呑まれたような表情を浮かべていた訳でも、能面のような無いからこその怖さという訳でもない。

なのに。

にも拘らず。

まるで血塗れの獣が目の前であぎとを開いているような、どうしようもなくゾワゾワした感覚が十本指をくまなく苛んでいく。

―――な、に……?

紺野木綿季は、答えを出せなかった。

どころか、動けなかった。

そうこうしている間にも、相馬は他愛なく笑っていた。

あくまで、笑っているだけだった。

「俺は相馬だよ、小日向相馬。お前()の従兄で、どこにでもいる平凡なバカ野郎だ」

ゆっくりと紡がれる言葉。

そこにも、明確な何かがある訳ではない。にも拘わらず、違和感という名の風船はどんどん膨らんでいく。

「……なぁ、木綿季。俺はさ、本当に何もない人間なんだよ。ベタベタと周りから張られたシールに振り回されるくらいの、そんな吐いて捨てるほど転がっていそうな凡人なんだよ」

それは、世界を席巻する《鬼才》の口から出たものとは信じられない言葉。

だが、木綿季にはそれが昔の彼そのものを表すものだと思った。

嘘偽りない、《小日向相馬》の本音であり、本質であり、本性。

「たぶん天才という点ならお前にも負ける。けど、けどな――――」

ゆっくりと。

しかし、確実に。

相馬は紺野家の墓に向けてかがみ、石碑に刻まれている一つの名前を愛撫するように指の先端を這わせる。

「俺は、その平凡のためなら世界を犠牲にできるぞ」

「ソ、ウ……君……?」

小日向相馬は立ち上がっていた。

しかし、いつ足を伸ばしたのかが分からない。まるでコマ落ちしたように、気が付いたら直立していたのだ。

彼が、相馬が、本当の意味で手の届かないところに行く、行ってしまう。

それが痛いほど分かっていても、木綿季のノドは張り付いたように収縮していて、何の音も漏らせずにいた。

そんな少女に笑いかけ、相馬は黒衣の裾を翻して歩き出す。

決定的な一歩を、踏み出す。

「最後にお前に合えたのも、クソみてぇな《運命》ってヤツなのかね。でもまぁ…………会えてよかった」

ぽん、と。

頭の頂点に優しく置かれた手のひらが、ともすれば名残惜しげに離された直後、勢いよく振り返った先に男の姿はもうなかった。






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