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第八十七話 状況は「前門の虎後門の狼」というわけですか。
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「面白そうじゃないの。」
二人が振り向くと、ウィトゲンシュティン中将の白い顔がそこにあった。
「閣下!!お体は大丈夫なのですか!?寝ていないと――。」
駆け寄るカロリーネ皇女殿下の髪をウィトゲンシュティン中将はクシャクシャとかき回した。この人らしくないしぐさだったが、それでいて自分の妹に対する仕草のような親しみさを見せていた。ウィトゲンシュティン中将はイゼルローン要塞に赴任してから、カロリーネ皇女殿下に対して時折このようなことをするようになっていた。
「私はそれほどヤワではないわ。でも、ありがとう。心配してくれて。」
ヤワではないわ、という言葉は突き放すようだったが、後半はとても温かみがこもっていた。ウィトゲンシュティン中将はこのように相反する感情を一つの言葉の中に平然と混ぜることができる人間だった。
「タンクベッドで睡眠をとってきたから、もうしばらくは大丈夫よ。無理はしないわ。・・・無理ができない体だっていうのはあなたたちにもばれてしまったのだから。」
「・・・・・・。」
カロリーネ皇女殿下もアルフレートも、今やウィトゲンシュティン中将の身体を蝕んでいる原因を知っていた。
クリスティア病――。
発見者であるクリスティア博士の名前からとられたこの病気は数百万人に一人の発症率であり、未だにその病気の治療法がわからないのである。発症してからの期間は個人差があるが、徐々に免疫が低下し、炎症を各所に起こし、死に至るのである。
この病名を、二人の幾度にもわたる「追求」についに折れたウィトゲンシュティン中将が明かしたのだった。つい最近発病したものであること、どのような治療法も確立されていない事、無理をしなければ通常の人とほぼ同じような生活ができることなどを。
「私が亡命したわけの一端、今となってはわかるでしょう?」
ウィトゲンシュティン中将が微笑んだ。無理をしているのが痛いほどわかるほどの微笑みだった。肉体的な痛みをこらえているのではない。彼女の微笑みの中には、様々なやるせない思い、精神的なダメージ、そしてもどかしさなどが詰まっていたのである。
「あんな劣悪遺伝子排除法が蔓延るような帝国を維持している本家、そしてそれを支える中枢は淘汰されるべきだわ。」
一転、苦々しさを込めてそう言ったウィトゲンシュティン中将が、カロリーネ皇女殿下を見た。
「あの・・・・。」
「失礼、話がそれてしまったわね。それで、その帝国軍を回廊に引きずり込む作戦、どういう風に考えているの?バウムガルデン大尉。」
アルフレートは突然の指名にうろたえながらも、
「は、はい。敵の大規模な増援が来たとなれば、今前線にいる帝国軍の取るべき道は二つです。一つ目は増援を知って自らの進退に影響すると感じ取った前線司令部がますます攻勢を強めるであろ
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