1期/ケイ編
K18 Moon Drop
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暮れなずむ夕日を背にして響が歩いてくる。その肩にフィーネの腕を回して支えながら。
(はっきり言って予想外。あの爆発に飛び込んでまで助け出そうとするんだから)
ケイとて櫻井了子には世話になった身だから、了子が無事であればいいと願った。だが、完全にフィーネとなった了子は手遅れだとも思っていた。だから、フィーネを助けるという行動に踏み切った響が、眩しい。
「もう終わりにしましょう、了子さん」
「……ワタシはフィーネだ」
「でも、了子さんは了子さんですから。きっとわたしたち、分かり合えます」
響はフィーネを適当な岩に座らせ、邪気のない笑顔を浮かべた。
「……ノイズを作り出したのは先史文明期の人間」
フィーネは立ち上がり、こちらに背を向けて歩いていく。
「統一言語を失った我々は手を繋ぐことよりも相手を殺すことを求めた。そんな人間が分かり合えるものか。だから、ワタシはこの道しか選べなかったのだ!」
――もしかすると、フィーネは最初、響の言うように人類同士で分かり合おうとその術を模索したのかもしれない。言葉を失くしても心を繋ごうと奔走したのかもしれない。それでも叶わなかったから、今の「痛みだけが心を繋ぐ」という悲しい宗旨があるのかもしれない。
そんな、益体もない想像を、ケイはした。
「人が言葉よりも強く繋がれること、分からないわたしたちじゃありません」
だから、響のまっすぐな言葉が、フィーネの心を少しでも照らしてくれればいいと、願ってしまった。
フィーネが勢いよくふり返って、ネフシュタンの楔を放った。
しかし、響は楔を避け、一息でフィーネの間合いに入り込み、拳を――フィーネの胸の前で寸止めした。驚く理由が浮かばないほど、清々しい立花響「らしさ」だった。
「ワタシの勝ちだ!!」
ケイは、はっとして楔が伸びた先を顧みた。
楔は天高く。それこそ月に届かんばかりに伸びて――
「月の欠片を落とす!! ワタシの悲願を邪魔するものは、ここでまとめて叩いて砕く! この身がここで果てようと、魂までは絶えやしないのだからなァ。聖遺物の発するアウフヴァッヘン波形がある限り、ワタシは何度だって世界に蘇る。どこかの場所、いつかの時代! 今度こそ世界を束ねるためにッ! ワタシは永遠の刹那に存在し続ける巫女、“フィーネ”なのだッ!」
フィーネの哄笑に合わせて絶望感が押し寄せてくる。欠片だとしても、天体。巨大隕石だ。カ・ディンギルもない今、墜落を防ぐ手立てがケイたちには、ない。未来たちを守ってやれる力が、ケイには、もう、ないのだ。
―― 一陣の風が吹いた。
「うん。そうですよね」
フィーネと向き合う響の表情は、響が背中をこちらに向けているから見えない。
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