暁 〜小説投稿サイト〜
亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二十九話 第二百十四条
[4/6]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
に艦橋は緊張に包まれました。皆が戦術コンピュータとスクリーンを交互に見ています。

「ミサイル艇だけでは防げない、艦隊を動かして混戦に持ち込もう」
「それしかないね」
ワイドボーン大佐とヤン大佐が話し合っています。多くの参謀がその言葉に頷きました。私も同感です、混戦状態なら敵の進撃を止めることが出来ます。それに敵は要塞主砲(トール・ハンマー)を打てません。安全に味方の撤収を進めることが出来るのです。

「駄目です、揚陸艦を廃棄させてください。それとミサイル艇の撤収を」
「何を言っているんだ、ヴァレンシュタイン」
大佐、どうしたんです、一体。艦を廃棄だなんておかしいです。皆が訝しげに見る中、ヴァレンシュタイン大佐は頑迷に揚陸艦の廃棄を主張しました。

「揚陸艦を廃棄させ、ミサイル艇を撤収させろと言っているんです。強襲揚陸艦の乗組員はイゼルローン要塞に退避させてください」
「……」
「訳は後で話します、早く!」

大佐の強い口調にグリーンヒル参謀長がミサイル艇の退避、強襲揚陸艦の廃棄と乗組員のイゼルローン要塞への退避を命じました。そしてヴァレンシュタイン大佐へ視線を向けました。

「何故かね大佐?」
「ここで混戦状態を作り出せばミュッケンベルガー元帥は味方殺しをする恐れがあります」
「!」

味方殺し、その言葉に皆がギョッとしたような表情になりました。
「馬鹿な、こちらは撤退しようとしているんだぞ、味方殺しをする必要がどこにある?」

ワイドボーン大佐が幾分震え気味の声で問いかけます。そしてヴァレンシュタイン大佐が明らかに冷笑と分かる笑みを浮かべました。そんな顔をするから大佐は怖がられるんです。

「勝っているのはオフレッサーですよ、ワイドボーン大佐。ミュッケンベルガーは要塞に陸戦隊を送り込まれるという失態を犯しました。自分が勝っているなどとは思っていないでしょう。もしかすると辞職さえ考えているかもしれない」
「……」

「こんな時に混戦状態を作り出したらどうなります? ミュッケンベルガーは同盟軍が帝国軍の動きを封じ、新たな攻撃をかけてくると判断するでしょう。これ以上の失態は許されない、要塞を守らなければならない。追い込まれたミュッケンベルガーが何を考えるか……」
ヴァレンシュタイン大佐の言葉に艦橋の彼方此方で呻き声が聞こえました。

「しかし、だからと言って味方殺しを……」
参謀の一人が弱々しい声で抗議しましたがヴァレンシュタイン大佐が睨みつけて黙らせました。

「ロボス元帥はどうでした? 彼は味方を磨り潰すことさえ躊躇わなかった。ミュッケンベルガーの立場はロボス元帥より悪いんです。彼が味方殺しを躊躇う理由は有りません。彼にはどんな犠牲を払おうと要塞を守るしか道は無いんです」
「……」


[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ