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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二十九話 第二百十四条
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陸戦隊が多いと聞いています。凄惨な白兵戦を展開している中で指揮官が錯乱し判断力を失う……。特に実戦経験の少ない新米指揮官に良く起こるそうです。
もっとも宇宙空間での戦闘では白兵戦そのものがあまり有りませんから第二百十四条が適用された事など殆どありません。まして宇宙艦隊で総司令官の解任が進言される等前代未聞です。グリーンヒル参謀長が決断できないのも仕方ないのかもしれません。
ロボス元帥が大きな笑い声を上げました。その眼には勝ち誇ったような色が有ります。ヤン大佐が溜息を吐くのが聞こえました。私も同じ思いです。第二百十四条は部下が上官の愚行を防ぐ最後の手段なのです。
それが無になった……。ヴァレンシュタイン大佐は戦闘中に第二百十四条を上官に進めた。軍を無意味に混乱させたとして罪に問われるでしょう。反逆者と呼ばれることになります。
私はヴァレンシュタイン大佐の顔を見ることが出来ませんでした。大佐は反逆者と呼ばれる危険を冒してまで将兵を危機から救おうとしました。同盟の人じゃない、亡命者なのに同盟の将兵を救おうとしている。それなのにその全てが無に帰そうとしている……。
悩んだでしょう、苦しんだと思います。何故自分がそんな危険を冒さなければならないのかと……。それでも大佐は目の前の危機を見過ごすことが出来なかった……。大佐の言葉を思い出しました。”犠牲が出ると分かっていながら自分の利益のために見殺しにする……。寒気がしましたよ”
私は馬鹿です、どうしようもない愚か者です。大佐が帝国の内情に詳しいからと言ってそれを訝しんだり畏れたりしました。一体それが何なのでしょう、ワイドボーン大佐が言うように多少知識が豊富だというだけです。それなのに……。
大佐の心は誰よりも暖かく誠実なのに、そこから目を逸らしていました。ロボス元帥やフォーク中佐のように自分の出世や野心のために人の命を踏みにじる人間こそが化け物です。大佐は、大佐は、間違いなく人間です。目の前で危険にさらされる人を見過ごせない普通の人間です。
「参謀長、攻撃の続行だ!」
高らかに命じるロボス元帥を憎みました。第二百十四条を行使しないグリーンヒル参謀長を憎みました。それほどまでに自分の地位が大事なのか、人として恥ずかしくないのかと……。
私も第二百十四条の行使を進言しようと思いました。意味は無いかもしれません、でももしかすると他にも私と同じように参謀長に進言してくれる人が居るかもしれません。そうなれば参謀長も受け入れてくれるかもしれないと思ったのです。
例え居なくても大佐に同盟人は恥知らずばかりだとは思われたくは有りません。少しでも大佐の前で顔を上げて立ちたい……。そう思った時です、グリーンヒル参謀長がゆっくりとした口調でロボス元帥の命令を拒否しました。
「
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