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蒼き夢の果てに
第7章 聖戦
第166話 ゲルマニア、ロマリアの現状
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 重厚な作りの扉を閉じると、其処は夜と冬の大気に支配された空間。
 遠くより微かに聞こえて来るのは軽やかな円舞曲。その中に、多くの人々の笑いさざめく気配……生命を感じる事が出来た。

 そして……。
 そして、ゆっくりと。しかし、着実に近付いて来るよく知っている人物の気配。

 大理石の床、精緻な天井画。一定間隔に置かれた金銀の装飾品に反射するのは人工の光輝。圧倒的な存在感を持つ豪華絢爛な場所と、それに少し相応しくない無機質な蒼白い光。
 生活感のない……まるで美術館か何かのような回廊。その突き当たりに佇みながら、静かに溜め息にも似た吐息をひとつ吐き出す俺。

 この時、俺に抱き上げられた彼女から疑問符が発せられた。
 同年代の少女と比べるとかなり幼い雰囲気。その整った容貌を隠す為なのか、赤い伊達メガネを装備する彼女。
 その彼女の発した気配の中に、僅かな陰の気を感じた事に対して思わず苦笑を浮かべて仕舞う俺。普段なら……。いや、先ほど彼女の発した微かな気配では、地球世界に追放される以前の俺ならば、間違いなく気付かないレベルの本当に微かな気配だと感じたから。
 流石に彼女……タバサが今何を考えて陰気を発したのかまでは分からない。おそらく彼女の事だから、自分の体調不良を理由に会議を中座させて仕舞った事に対して少し蟠りがあるのか、それとも、こうやって抱き上げられた状態で小トリアノ宮殿にある部屋にまで運ばれる事に対しての不満……と言うか、引け目に似た感情を抱いているぐらいなのでしょう。
 もっとも、部屋まで自らの足で歩いて行く訳ではなく、この場での用事が終われば速やかに転移魔法を使用する心算なので、別にそれほど気にする必要もないのですが。

 妙に俺の前に出ようとする彼女。まるで何としてでも俺を守ろうとするかのような、その強い決意を今まで感じていたのだが……。どうも、その辺りも前世に関係があるようなので……。
 何にしても、彼女をただ抱き上げて運ぶぐらい大した負担に成る訳ではない。まして、結婚式の披露宴で衆人環視の中、新郎が新婦を抱き上げてお色直しに下がる……と言う、悪趣味なイベントと言う訳でもないので、少々の事は気にしなくとも良い、と思うのですが。
 未だ俺や、その他の養子たちの姉の気分で居るのか。俺もかなり前世に引き摺られているのだが、この腕の中に居る少女も前世から完全に脱し切れて居る訳ではないようだな。

 再びの苦笑。ただ、これは心の中でそう考えただけ。
 そうして、

「いや、何な。流石に、これは急ごしらえ過ぎたかな……そう考えただけなんや」

 立ち止まった事も、それに溜め息を吐いた理由も、別に大した理由ではない。……気にする必要はないで。俺の腕の中から僅かな上目使いに見つめる蒼い瞳に対して答える俺。
 
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