暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
OVA
〜紺色と藍色の追復曲〜
あの時あの場所で
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もなく通っている人がいるのだろう。
さぁ、と頬を掠めていく木枯らしに目を細めながら、木綿季は自分が持って来た花束をとある石碑の前に置く。
ここで合掌したり祈ったりするのが普通なのだろうが、死者を弔う仏教のそれと違い、キリスト教の墓前での祈りはそういう意味合いでは使われない。墓前での祈りは、死者が生前受けた主の恵みに対してのものであり、決して死者そのものに対してではないのだから。
だから木綿季は、手を組むのではなく静かに俯いた。
黙祷。
これだけは、東西問わず死者への祈りと決まっている。
―――パパ、ママ。
父と母は、木綿季が幼い頃に亡くなっていた。
だが、だからといって思い出がないという訳ではない。
目を閉じると、柔らかい手が幼い自分を包み込んでいる情景が脳裏に浮かび上がる。耳にこだますのは、聖書の一節だろうか。優しい声が心をゆっくりとときほぐしていく。
父も、母も、決してなくなった訳ではない。いつも自分を見守っているのだ。
敬遠なカトリック信徒であったという母の声を名残惜しげに断ち切って、木綿季は静かに目蓋を開けた。
「……パパ、ママ、久しぶり。結構時間開けちゃってゴメンね。けど、ちゃんと元気にしてるよ。蓮だって……元気だよ」
一拍を置いた。
その意味に思いを馳せ、木綿季は沈鬱な表情になるのを抑える。
実の従弟、小日向蓮の容態が思わしくないのは、薄々感じ取っていた。本人はあれで隠しているつもりらしいが、いくらなんでもほぼ同時期に眼を醒まし、きちんとした医療行為を受けていたアスナと比べ、いまだに車椅子生活を強いられているのは尋常ではない。
だが、そんな物理的ではっきりとした理由ではない。
感じるのだ。
彼の――――蓮の現実世界での存在感というか、そんな曖昧なくせに実体を持った銀砂のようなものが、指の隙間から零れ落ちていくように彼の矮躯から抜けていっているのが。
心配しない訳がない。
あの悪夢のようなゲームから解放され、やっと他愛のない日常に戻って来られる。そう思っていた。
だが違った。
いざ現実世界に戻ってきたら分かった。あの病室で、週一回、ALOが定期メンテナンスでサーバをシャットダウンする僅かな時間だけ帰還していた蓮と話し、感じた。
この世界は、小日向蓮の居場所ではない。
蓮の本質はいつだって
仮想世界
(
むこう
)
にあり、
現実世界
(
ここ
)
にはない。
そして、その隣は――――
「………………」
ぎゅっと目を瞑った木綿季は、軽く首を振る。
今回のGGOで
理解
(
わか
)
ったではないか。
実力がない?だから何だと言うのだ。それを理由に彼の危機に駆けつけないのは、ただ
悲観的
(
ヒロイック
)
に酔った責任
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