暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
OVA
〜紺色と藍色の追復曲〜
あの時あの場所で
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透明な少年は、思わず言わずにはいられないような調子で口を開いた。

「……それでもお前は、いつだって俺を信じてくれたよな」

《鬼才》を抜いたら何も残らない。

無味無臭で無機質で無色透明で、けれどあの何もない空っぽの弟とは違って、無垢ではなかった男を、最後まであの少女は信じていた。

子供だとはとても思えない。

大人びた、透徹した眼差しでいつも相馬のことを見ていた。見ていてくれた。

唯一の《鬼才》でさえ、その特異性が与える影響のせいで、バレないように必死で伏し隠していた。だが、そのことさえあの瞳の前では見透かされていたような気がするものだから、記憶とは時として美化されることもあるかもしれない、と相馬は真っ黒な白衣の襟で隠すようにして肩を揺すらせる。

ひとしきり声を殺して笑った後、相馬は大きくシートの背もたれに体重をかけた。

―――まいったなぁ。

頭の後ろで腕を組み、足を延ばして伸びをする男は唸る。

「覚悟を……しに来たはずなんだがなぁ」

世界を席巻するという天才は、情けない一言を吐露した。

嫌だった。

何が嫌かって、勝手に諦めムードに入ってヒロイックに悦に浸っている自分自身が、一番憎たらしかった。

運命に負け、因果に負け、世界の意思そのものに負けた。

だが、それでも最低最悪な手段で諦めなかった少年にも青年にも見える男は、血の滲むような声で言葉を絞り出した。

「……クソッタレ」

軽い制動とともに、ワゴン車が止まった。

丘陵地帯にあるカトリック教会。その駐車場に、車は綺麗に止まっていた。

時期的に葉はついていないが、桜並木に囲まれるその教会を仰ぎ見て、しばし目を閉じていた相馬は「よし」と短く言う。

踏ん切りのような、スタートの合図のような。

そんな短い一言を、他ではない自分に言い聞かせる。

目的は教会、ではない。本命は、その隣に付随するように広がる芝の墓地だ。

両手の中にしっかりと握った花束の感触を確かめながら、相馬は足を踏み出す。










木綿季は、その石碑の前に立っていた。

カトリック――――というか、キリスト教の墓地は日本の神道や仏教の方式とはだいぶ違う。そもそもお墓の姿形からして、日本のそれほど大仰な造りになっていない。

まぁ形式や種類にもよって色々あるが、この教会の墓は一様に、芝地に埋め込まれた石のプレートのみだ。日本のように、墓石や線香立てなどゴテゴテしたものは存在しないのである。

よく手入れされた芝地に、幾多のプレートが学校の机のように整然と並んでいる様は、いつ見ても不思議な光景だ、と紺野木綿季は思った。

ぽつぽつと献花がプレート前に置かれているところから、足げ
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