記憶
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どう聞いても足音は男のもので。その時点で候補は既に何人かに絞られていたが、工房の扉を開いたのは馴れ馴れしい顔をしたサラマンダーだった。こちらの失望はアミュスフィアによって表情に出ていたらしく、クラインはつまらなさそうに頬をかく。
「辛気くさい顔って言えばよ。外でリズ見かけたんだが、ありゃケンカでもしたか?」
「らしい……」
「ふーん……ま、最近はリズよりオーディナル・スケールにお熱みてぇだし、それじゃねーの?」
話半分に役に立たなそうなアドバイスを聞きながら、鍛冶作業の後始末を全て終わらせる。クラインもどうやらこちらの仕事が終わったことに気づいたらしく、本題に入りたそうな表情を見せていた。
「でもよ、お前がオーディナル・スケールにお熱なのって、リズのためだろ? それでケンカとは、男は辛いねぇ……」
「……は!?」
それはアスナにしか言っていないはず――と驚きを露わにしてクラインの方を見ると、そのニヤケ面が眼前に浮かんでおり、簡単にハメられてしまったのだと確信する。
「っ……!」
「大丈夫だっつーの、みんなにももうバレバレだからよ。分かってないのリズぐらいのもんだ」
後悔と不覚に髪の毛をガリガリと掻く俺に対し、クラインが笑いながら肩を叩く。ハゲんぞハゲんぞ――とVR空間であるにもかかわらず注意されるがクラインの言葉に、俺の動揺はさらに続いていた。
「バレバレ……と?」
「は? バレてないと思ったのか?」
「……なんでだ?」
「いや……見てりゃ分かんだろ。元々ゲーム好きって訳でもないお前がよ、ポイント稼ぎしてんの見てたら」
「…………」
しかも近々リズの誕生日だしよ――と続くクラインの言葉に、ぐうの音も出ることなく沈黙する。まさかバレるようなことがあるとは思っていなかったために、見栄を張って隠しきれないほどの動揺が俺を支配し、クラインも流石に可哀想になってきたらしい。
「……ちなみに、なんでプレゼント買うような金もねぇんだ? アスナと違ってバイトも出来るだろ」
「……誰にも言うなよ」
「おうよ。こう見えても口は堅いんだぜ?」
ふと、気になったかのようにクラインが呟く。確かにクラインがそう疑問に思うのももっともで、毒を食らうば皿まで、という面持ちで息を吐く。ずいぶんといい笑顔をしてくれるクラインだったが、残念ながらこの男が信用出来るということは知っていた。
「参考書とか……試験代でな」
「試験代ぃ?」
見た方が分かりやすいだろう、とメニューを可視化させてクラインの方に飛ばす。そこに描かれているのは、簿記や会計士などの資格の試験や対策講座、などなど資格取得のために必要なアレソレだった。そして資格取得のために必要
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