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SAO−銀ノ月−
記憶
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届く依頼だった。今回はメンテナンスの依頼が多く、特殊効果の付与よりはずいぶんと楽な依頼だった。

「…………」

 だからといって気を抜く訳もないが。代々のリズベット武具店に伝わる、鍛冶の際はただ無心に作業すべし、という鉄則に従いながら。研ぎ機に片手剣を触れさせていき、手頃な時になれば剣を離していく。

「…………」

 それを二人で幾度と繰り返していき、心地よい作業の音が空間を支配する。お互いに会話はないが、ならばこそ伝わるものもあり――故に、リズの普段とは違うような感情が伝わる。鍛冶作業に何か戸惑いを感じているような、そんな違和感が。

「お疲れー!」

「お疲れ」

 ――それは本人が一番分かっているだろうから、わざわざ言うようなこともないのだが。お疲れ様、とお互いに拳を合わせると、メンテナンスが終わったあとの調整をしておく。

「本当にさっさと終わったわね……そういえば、知ってる? ALOの浮遊城更新、延期だって」

「注文が少ないんじゃなく、プレイヤーが少ないってことか」

 ALOのプレイヤーの数が減っている原因は、十中八九、新作ARゲーム《オーディナル・スケール》だろう。リズの誕生日のプレゼントという崇高な目的があるとはいえ、自分も今はそちらをメインにプレイしているため、多少なりとも耳が痛い話だったが。

「早く四十八層までクリアして貰わないと困るのにな」

「そ、そうよね……」

 新しいジャンルのゲームが出来たということで、多くのプレイヤーがひとまずは《オーディナル・スケール》に流れているこの状況で、目玉であるイベントを流すという選択は理解できるが。キリトやアスナの二十二層のように、早く四十八層の《リズベット武具店》を取り戻したいという思いは、隠しきれないほど確かにあった。

「あ……ごめんショウキ! ちょっと用事思い出したんだけど、後は任せて大丈夫?」

「ああ、あとは後片付けぐらいだし……」

「ごめん! よろしく!」

 そう言い残すと、リズは本当に急用を忘れていたかのように、すぐさま工房から出て行った。まるでこちらから逃げるようなその動作に、何か怒らせてしまったかな――と、店からリズが出て行く音を聞きながら髪を掻く。

「ん……?」

 後片付けに注文者への返信など、鍛冶仕事の後始末をこなしていると、何やらまたリズベット武具店の入口が開いた音がする。ただの客だったとしたら、何やら物色したり店員NPCに話しかけたりし始めるが、どうやら一直線に工房に向かって来ているようだ。そんなこの店を熟知している動きに、リズが帰ってきたかと一瞬だけ思ったが。

「よっすショウキ! ……ん? どした?」

「だよな……」

「んだよ、いきなり辛気くさい顔してよー」

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