記憶
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「あれ……?」
《オーディナル・スケール》のボス戦を終えて、自宅で床についていたはずのリズ――里香は、ふと気づけば自分がある場所に立っていたことに気づく。
「ここは……」
アインクラッド第四十八層《リンダース》。その郊外に位置する、あのデスゲームに囚われていた時に、大枚はたいて買った初めての自分の店、初代となる《リズベット武具店》だった。ただし自分の格好はVR世界でのエプロンドレスにピンク髪ではなく、現実の学生服なものだから違和感しかない。
「明晰夢、ってやつだっけ……」
自分が夢を見ている状態であると気づく夢。VR世界とリアルの身体という違和感から、そう多くない時間で里香はそのことに気が付いた。あまり出来ない経験だと、里香は懐かしのリズベット武具店の中を散策していく。
「この音……」
そうしているうちに響き渡ってくる、心地よく聞こえる鍛冶の音。水車とともに定期的に鳴り響く、金属と金属がぶつかり合う音に誘われるように、里香の足はフラフラと工房へと向かっていく。
「あ……」
工房の扉を開く。そこには一心不乱に鍛冶作業をする、今の自分より少し幼い顔をした、ピンク色の髪をした少女――《リズベット》がいた。どうやらリズベットは乱入してきた里香には気づかないようで、積まれている作業に忙殺されていた。オーダーの内容がまとめられている紙とにらめっこしたかと思えば、すぐさま次の仕事に移っていく。
「ふふ……」
そんなリズベットを見ながら、里香は懐かしげに頬を緩める。確かに忙しい時は何度となくあったけれど、仕事をしている時だけは無我夢中でやり遂げていた。自分が直接的にモンスターと戦えるような勇気を持たない分、他のプレイヤーに力を与えられるように。
――仕事をしている時だけは、襲いかかってくる『死』から逃れることが出来たのだから。
『ふぃー……』
リズベットが今日の分の仕事を終わらせたらしく、息を吐きながら仕事用のハンマーを壁に立てかけた。用意してあったコーヒーをコップに注ぎ、椅子に座って温かいコーヒーを飲んで一息つく。
「…………」
……しかしてしばらくしてみれば、その表情にみるみるうちに恐怖の表情が浮かんでいく。脳波で感情を理解してそれをアバターが反映するこのVR世界、とりわけナーヴギア故の反応のよさにより、あの表情こそがリズベットの今の剥き出しの感情だった。
終わりの見えないデスゲームへの不安はもちろんだが、それ以上に――自分の武器を取って死地に出向いた剣士たちが、死ぬことがないかどうか。もちろん武器の一つ一つに手を抜いたことなど一度もないが、このデスゲームのモンスターは時にこちらの予測を大きく上回る。どんなにデータを暗記していようと、何が起きるか分か
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