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ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!
第八十六話 マリーンドルフ伯爵令嬢は遠征に反対のようです。
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締まったのがヒルダにも感じられた。ビンとピアノ線のごとく張り詰めた空気は、常人ならばそれ以上口を開くことをためらわせるほどのものだったが、ヒルダはそれに臆することなく言葉をつづけた。
「帝国軍三長官の御命令とあれば致し方ありませんが、イゼルローン要塞において閣下が長期にわたり前線におられる必要性はないと思われます。そこで麾下のエリーセル大将を督戦という名目でご訪問なさればよろしいかと――。」
「差し出がましい発言は控えてもらおうか、フロイライン・マリーンドルフ。」
ラインハルトのアイスブルーの瞳が強烈な輝きをもってマリーンドルフをにらみ据えた。
「あなたは私の秘書官であるが、私はあなたを軍事顧問にした覚えはない。」
「・・・・・・!」
ヒルダの顔に一瞬動揺がうかんだ。ラインハルトからこれほどの強烈さをもって対峙されたのは彼女にとっては初めての経験だったからである。
「主の傍らにいる一介の秘書官が多岐にわたって発言をすることは亡国の第一歩である例は古来から事欠かない。聡明なフロイラインにはお分かりだと思うが。」
「・・・・・・・・。」
「イゼルローン要塞ではあの巨大要塞を支えることは不可能なのだ、フロイライン・マリーンドルフ。なればこそ私自らが赴き、彼奴等をその巨大要塞ごと完膚なきまでに討ち果たす必要がある。」
「ですが、閣下――。」
いいかけたヒルダの声がしぼんで、そして消えた。
(閣下は、本当に自由惑星同盟とやらの敵要塞を撃破することそのものをお望みなのかしら?)
という疑問がうかんできたのである。それを脳裏に思い描いた瞬間、全く突然にそれは姿を現した。幻想、と言ってもいい。
彼女の声を失わせたのは、あまりにも硬くまっすぐな決意の壁が眼前にそびえ立っていることだった。何者をも超えることを許さない、決して揺らぐことも崩れることもない巨大な壁。くじけそうになったヒルダだが、彼女は一方で知っていた。その壁の中にこそ、ラインハルトの意志がある。この度の遠征を決めた本当の理由、そしてその奥にある彼の本当の気持ちが――。それに触れてみたい。それを掴みたい。この手で取って触りたい!
そう思うこと自体が主従の関係を越えたものであることをヒルダはよく知っていたけれど、それはまるで純粋なダイヤモンドのようにヒルダを魅了してやまなかったのである。
「もう決めたのだ、フロイライン・マリーンドルフ。」
ヒルダの意識は現実に引きずり戻された。静かに発せられたラインハルトの言葉には有無を一切言わせぬ調子が満ちていた。
「先までの言葉、あなたが私を案じてのことであることは、充分に承知している。」
今度は一転して穏やかな表情だった。そして今の言葉はヒルダのみならず、聞くものの立場に立って考えればある方向性を示唆するものなのだと想像を促すことは充分だった
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