番外編:殺人鬼の昔話2 上
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あ、嗜む程度には」
ラシャの返答を受け取った柳員は席を立った。奥に暫し引っ込んだ後、一升瓶を一本引っ提げて戻ってきた。
「もう遅い時分だ、泊まっていきなさい。ついでに一献付き合ってくれ」
「夢であった、こうして我が子同然のお前と酌み交わすのは……本当に、夢であったのだ」
どれくらい時間が経ったのであろうか、柳韻は恍惚とした表情で盃を飲み干した。久しく口にしていなかった酒は実に心地よく、他愛のない話を肴に瓶の酒は目に見えて減っていった。酔の回りはピークに達しているようで、柳韻の表情は異国人のように赤く火照り、さながら雛人形の右大臣染みた表情である。本来酒に溺れること無く過ごしてきた柳韻であったが、愛弟子の訪問が余程嬉しかったらしく、平時の彼ならば考えられぬほどの量を呑んでいた。
対するラシャは、眉一つ顰めること無く盃を傾ける。しかし、その表情は柳韻のそれと反比例しており、幾ら盃を乾かしても顔に酔いの色は見えない。しかし、その表情は穏やかなもので、長く会ってなかった親に漸く孝行出来た息子のような表情で、酔うかつての師の様子を見守っていた。
「しかし、よく私の今の住処がわかったな。妻や箒の居場所でさえ、よく分からん電話で月に一度連絡が取れるだけだと言うのに……どうやって知ったのだ?」
柳韻の問いに、ラシャの手が止まった。
「……新しい就職先で知ったのです」
「ほう」
ラシャの返答に、柳韻は驚愕と同時に、この若者を雇い入れた企業へ僅かばかりの妬心を露わにした。
──あの事件がなければこの子は……。
「私も、独り立ちしたということですよ」
呑み切らないまま、盃を置いたラシャは居住まいを正して思案に暮れる柳韻を見つめ返した。
「先生、貴方の家の蔵で史料を探していたときなのですが……気になるものを見つけたんですよ」
ラシャが机に広げたものを見た瞬間、柳韻の酔は身体から消えて失せた。同時に体の奥底から冷たい何かが水のごとく湧き出てきている感覚を覚えた。心の臓から凍てついていく様な感覚を示唆するかのように、柳韻の汗腺という汗腺からは冷や汗が吹き出し、身につけていた着流しに纏わり付いた。
「こ、これを……何処で」
打ち上げられた瀕死の魚が喘ぐがごとく、どうにか声を出す柳韻。対するラシャの表情は、この家を訪れた時と変わらぬ爽やかな微笑みを湛えている。何の意図があって『これ』を態々眼前に持ち出してきたのか。突如、眼前に正座する我が子のようにかわいがっていた青年が、得体の知れない怪物──長姉である束の姿に似た何かと重なって見えた。
「単刀直入に訊きます。『これ』は事実なのですか?」
ラシャの言葉が鋭い鎧通しと化して柳韻の胸を抉る。量を増していく冷
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