番外編:殺人鬼の昔話2 上
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に於いては、当初は将来を期待するほど熱中したものの、驚くべき速度で飽きてしまった。発破をかけるために門下生と立ち会わせてみれば、大して努力もしていないのに軽々と一本を取ってしまい、自信を叩き折られた師範代が道場を辞めるのに時間はかからなかった。剣に宿る聖を汚す行為として柳韻が道場への立ち入りを禁じたのもこの直後であった。
学校では神童だ天才だともてはやされていたが、当の本人は全く意に介していなかった事も柳韻を気味悪がらせた。この時生まれた『まだまともな』次子の箒の存在も相まって、柳韻は束を避けるようになった。束はもう父なぞ眼中になかったからだ。
ここで、柳韻は眼前に正座する若者を見る。自らが示した篠ノ之流を余すこと無く身につけ、更に柳韻自身が修めること叶わなかった、戦国期から伝えられてきた真の篠ノ之流でさえモノにしつつあった。自らが子に抱く理想の体現したものがラシャだったのだ。
束とのすれ違いが日常に成り果てて久しいそんなある日、舞い散る桜の花弁を身に受けて道場に入門してきたのがラシャだった。この時から既に天涯孤独の身で、自らの居場所を探すためにやって来ていたようなものだったと柳韻は記憶している。
年相応の態度は微塵もなく、かと言って自らの不遇を周囲に当たり散らすほどの無軌道な乱暴さも無かった。しかし、修練に掛ける執念は並々ならぬものがあり、周囲には決して当たり散らさぬ態度に反して、試合や型稽古に見せる不自然とも言える凄みは不安定な火薬を連想させられた。周囲からは、自らを捨てた両親へのお礼参りを果たすべく稽古に励んでいると、絶えず囁かれていた。
親に捨てられたやるせなさを振り切るように修練を積むラシャに、柳韻は男子が欲しかったこともあって、何かと世話を焼いた。そんな厚意に応えるように、ラシャの表情からは禍々しさが抜けていき、それに反比例して実力は上がっていった。これらは、柳韻を大いに喜ばせた。
そんな彼が篠ノ之流の剣術以外の流派に興味を持ったと聞いた時、柳韻はある計画を練り始めていた。尤も、それが実を結ぶ前に、白騎士事件やラシャの失踪と言った凶事が立て続けに起こり、重要人物保護プログラムによる一家離散というトドメによって頓挫してしまった。
「先生?」
在りし日の郷愁じみた感慨に浸っていた柳韻は、愛弟子の一言で現実に引き戻された。眼前には此方を心配そうに覗き込む精悍な眼差しがあった。
「お加減がよろしくないのであれば日を改めますが?」
「……いや、大丈夫だ。そう寂しいことを言ってくれるな」
そう言うと、柳韻は壁に掛けられた時計に目をやった。既に午後を回っており、夕日が差し込む時間帯となっていた。
「ラシャ。お前はもう呑める年頃であったな」
ぽつりと柳韻が一言こぼす。
「ま
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