番外編:殺人鬼の昔話2 上
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。心臓から押し出され、動脈を通して身体の末端へと行き渡る感覚がはっきりと感じ取れた。同時に、身体に掛かっていた負荷や凝りの様なものが抜け、まるで全身が新たなものへと生まれ変わっているかのような気分をも味わっていた。
彼の名は篠ノ之柳韻。今も尚、世を賑わせて飽かない『天災』たる、篠ノ之束の実父にて眼前の若者、編田羅赦の武術の師であった。
檜の香りが真新しい客間に来客を通した柳韻は、ラシャが持ってきた菓子折りの饅頭を皿に移し、煎茶を添えて机に置いた。ハウスキーパーが定期的に掃除や管理の為に訪問するも、真の意味での客人を通すのは初であった。そんなハウスキーパー達が勝手に机に敷いていく悪趣味なアラベスク模様のテーブルクロスも、今回ばかりは気が利いた事をしてくれたものだ。と、柳韻は感じた。
ラシャは、「失敬」と呟くと、毒味をするかのように、饅頭を一欠口に運び、ゆっくりと咀嚼した。
「そうかしこまらなくても良い、君と私の仲ではないか」
「いえ、お立場を考えるとどうしても……」
ラシャの言葉に、柳韻の表情に影が差す。長女の束が巻き起こした『あいえす』なる発明品による事件と副産物たる女尊男卑主義。それだけでは飽き足らず、政府による要人保護の一環で妻子達からは引き剥がされる憂き目に遭った事を思い出したからだ。今でも夢でうなされるその光景は、未だ柳韻の心を蝕んで止まない。
「止してくれんか、最早妻や箒とは生きて逢えぬのではないかと思い始めておるのだ。これでお前にまでそのような態度を取られると、流石に堪える」
常時の覇気がいつの間にかすっかり抜け落ちてしまったその姿は、年相応以上に老けて見えていた。
「束ちゃんとは逢って居られるので?」
その何気ない一言は、今の彼の痛点を確実に衝いた。柳韻の表情に赤みが戻る。
「『あれ』の話はやめろ!」
柳韻自身、思いもよらぬ大声が出た。我に返ったときには、ラシャの人の良さそうな表情は驚愕によってとうに失せていた。
静寂が耳に痛い。時折響く鹿威しの音が壊れた秒針のように聞こえる。
「す、すまんな……この8年、様々なことが起きすぎた…少々疲れてしまっているようだ」
「やはり、恨んでいるので?」
ラシャの表情は一貫して無表情だが、その目は真剣だった。柳韻は気まずそうにお茶を飲み干した。
「最早『あれ』とは縁を切ったも同然だ。箒に並々ならぬ執着を抱いていた事だけが気になるが、今となってはどうにもならない」
淡々と絶縁宣言を語る柳韻の心には些かの惑いも無かった。我ながら薄情なものだ。と、柳韻は心中で自嘲する。思えば物心ついてから束とはすれ違ってばかりだった様に思える。
興味を抱く物は自らの理解の範疇を超えたものばかり。自らの得意分野
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