第2話「騒乱の序曲」
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していく。
彼らを捉えた所で、情報は得られないだろう。
「……くそ、面倒だ」
一つ舌打ちをして、健が肩を竦める。それを見た少女が「終わりですかねー」などと呟き、改めて女性に手を差し伸べた。
その手を取ってなんとか立ち上がると、顔にニコニコとした笑顔を戻した健が戻って来た。
「いやはや、無事で良かったよ、綾部さん」
「……!どうして、私の名前……」
「探偵ですから。取り敢えず、今の君が置かれている状況を説明したいんだけれど……」
健はそう切り出すと、突然思いついた様に「あ」と呟き、懐から携帯を取り出した。何かしら番号を打ち込み誰かに電話をかけると同時、それが繋がるまでの時間でぽつりと
「まあ、取り敢えずウチの事務所においで。やっすいお茶菓子でよければご馳走しよう」
そう、言ったのだった。
◇ ◇ ◇
「……それで、そいつが例の『絵描き』か?」
双樹がソファに座る絵里に鋭い視線を向け、その冷たい目を受けた彼女の体がビクリと震える。「まあまあ」と健が間に割って入り、双樹もまた興味無さげに目を逸らした。
健は自分もまた絵里の反対側のソファに座り、茶髪の少女もまた彼の横に座る。不意にパチンと健が両手を叩き、二人の視線を集めた。
「取り敢えず、まあ何が起こっているのか分からない節もあるだろう。君が一体どう言った事に巻き込まれて、どう言った状況に追い込まれたか――そこから話していこうか」
「……どういう事ですか」
「君だって、事がさっきので全て片付くとは思ってないんだろう?」
図星だった様で、彼女は俯いて黙り込む。あの路地裏で会った女、そして黒服の男達……あれは完全に、ドラマや小説なんかの世界で言う『裏側の住人』――マフィアやヤクザの類だ。
ああ言った人種は、まず一度狙いを定めた人間は逃さない。あの女……健が『カミサキ』と呼んだあの白髪の女は、絵里を殺すと言った。であれば、彼女は確実に絵里を殺そうとするだろう。まず確実に、絵里だけの力で逃げ切る事など不可能だ。
「そういう訳で、君には暫くの間、この事務所で寝泊まりしてもらう。ああ、着替えなんかは大丈夫、かずのこちゃんが用意してくれるから」
「僕!?」
「ウチの事務所に女の子は君しかいないんだ、当然でしょ?」
まるでコントでもするかのように言い合う二人を横目に、絵里は自身が持つスケッチブックに目を落とす。長年使っているはずなのに、未だその一ページたりとも埋まっていないそれは、長年彼女の絵を実体化させる触媒となり続けたものだ。
『舞えない黒蝶のバレリーナ』――綾部絵里が持つその異能は、スケッチブックに描いたモノを物質として実体化させる。
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