柿の精
[4/8]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
うまくいき、やがて集落の長から村の櫓に吊るす『鐘』の鋳造を頼まれた。
程なく見事な鐘が完成したが、困ったことが起こった。
鐘は重すぎて、櫓の上に運べないのだ。
集落の民は総出で知恵を絞ったが、誰もよい案を思いつかない。
困り果てたその時、鍛冶場で育った聡明な少年が、良い案を思いついた。
「鍛冶場から少し行った場所に崖がある。その崖の下に、崖より少し高いくらいの櫓を作れば、簡単に鐘を吊るせる」
村人は大喜びで、その案に従い…見事な鐘を吊るした櫓が完成した。
見事な櫓は村の守り神として、末永く大切にされたという。
「民話として伝わっているのは、これで『どんとはれぃ』だ」
「ほう…その子供はよく考えたもんだなぁ」
鴫崎は素直に感心して腕を組んだ。…炬燵の影に、奉がストックしていたカップラーメンが空になって転がっていたが、見なかったことにする。
「めでたしめでたし、じゃん。それと青島がこの柿を嫌うのと何の関係があるんだ?」
「―――この話には、とても厭な続きがある」
櫓は無事に完成したが、集落の民の間に新たな懸念が沸き起こっていた。
あの少年は、とても頭が良い少年だ。
人が思いつかないことを思いつく。
そういう子供は、大人になると悪いことや狡いことを思いつく。
頭の良すぎる子供は、大人になる前に殺さなければならない。
「―――はぁ!?」
鴫崎が目を見開いて体を乗り出した。
「なんだその結論!?逆だろ普通!?その子が誰も思いつかないような凄ぇこと思いついて、生活が超ラクになるかもだろ!?鐘を吊るせたのはその子のお陰なのに!」
「―――不作、天災、飢饉…山が多く水も豊富なこの地域は、様々な災害に見舞われた」
奉が適当に沸かした湯を急須に注いで、かるく回した。
「嵐の中で身を縮めて、必死に自らの食い扶持を守る。…それが全ての、閉塞した社会だった。この集落だけじゃない。日本中の多くの集落が、ここと似たような状況であり、同じような価値観を持っていた」
やがて俺たちの湯呑に、濁った出がらしが注がれた。
「彼らにとって変化は喜ばしいことではなく、僅かな変化が死に繋がる可能性に、常に怯えていた」
そして『天才』の存在は、変化を呼び込みがちである…奉は口の中で呟いた。
「その動機に『妬み』という感情がまったく介在しなかったかというと、それはまぁ…云い切れないが、大まかな動機はそれよ。カツカツの状態で辛うじて生きていた彼らは純粋に、変化を畏れたんだねぇ」
くっだらねぇ奴らだ…と呟き、鴫崎は乱暴に腰をおろした。…鴫崎よ、時間指定の配達物はいいのか?
「ところで、日本の信仰には『タタリ神』という特殊な概念がある」
「タタリ神??」
「菅原道真に崇徳天皇、平将門。無念の死を遂げた者は、祟りを
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ