柿の精
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で終了、か」
僅かに見えている頭を軽く撫で、奉が薄く笑った。
「もう、いいんじゃないか。こんなにあるのだから」
悪夢は柿を『ある程度』取れば終わる。
いつだったか、試しに柿を一つだけもいで帰ったが、悪夢は終わらなかった。奉が『面白いねぇ…カウントアップしてみるか』などととんでもない事を云ったが、それでは俺は規定量の柿をもぐまで毎日厭な夢を見続けることになるじゃないか冗談じゃない!と断り、その日のうちに100個近くの柿をもいでやった。
「そもそも俺はそんなに干し柿が好きじゃない」
毎年この柿をもぎ、干し柿を拵えるが、俺自身は食べた事がない。
「―――おかしな話だねぇ」
奉が俺を上目遣いで覗き込んできた。
「何を今更。毎年のことじゃないか」
「そうじゃないよ」
悪夢のことを云ってんじゃないよ、俺は。そう呟きながら、尚も俺を覗き込みながら奉は湯呑に口を付ける。
「お前はどうして、一つも『この』柿を喰わない?」
―――だって俺は、干し柿がそれほど好きでは
「吐き気がするほど嫌い、というわけではないだろう?」
「まぁ…そうだが」
「干し柿自体、食べたことがないか?」
「え?いや、そこら辺にあれば」
―――ん?
「あれば、食うんだな」
ぬ…と、茶色く縮んだ柿を一片、渡された。
「去年の、干し柿だ。まだ残っていた」
手渡された瞬間、僅かだが俺の中にぴりっと緊張…に似たような何かが走った。…気を付けていなければ分からない程度の。
「…どうした、食わないのか」
どれくらい、掌の干し柿を睨んでいたのだろうか。ふと我に返ると、奉のみならず鴫崎も俺をいぶかしげに見ていた。
「なんだ青島、お前干し柿嫌い?」
「えっ…そんなはずは…だって俺、干し柿」
……あれば……食べるし……。
「ほら、食え」
なんだ、この感覚…俺は何故。
「食えるんだろ」
「ばっ…やめろよ、青島厭がってんだろ?」
「厭がっているのか、俺は?」
思わず口をついて出た。
そうか、そう考えれば合点がいく。
俺は。
「そうだよ、お前はこの柿に、嫌悪感を抱いている」
奉はそっと湯呑を炬燵に置き、両手で包み込んだ。俺は掌の中で静かに干からびている柿に、再び目を落とす。物言わぬ柿は、何て言うか…。
「この柿…俺をずっと睨んでいる…気がする」
「は?何云ってんだお前?」
思わず身を乗り出す鴫崎を存在ごと無視して、奉は湯呑を包んでいた手をそっとほどいて語り始めた。
「……この地には、こんな民話が伝わっている」
山に囲まれたこの地には、鉄を鋳造する技術をもつ民がいた。
元々は流浪の民族だったが、この近辺に鉄や銅の鉱脈が豊富にあることを知った彼らは、この地に定着して鍛冶場を作った。
地元の集落との交易も
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