そうして君は泣いていた
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夢を、見ていた。
「ほらルー、こっちよ!」
朗らかな声が、僕を呼んでいる。大きく手を振って、ぴょんぴょんと跳ねて。
後ろにある夕陽のせいで、顔は見えない。眩しくて思わず顔を逸らすけど、しばらくしてからゆっくりと前を向く。
手を振ったその子が駆け寄ってきて、僕の手を取った。
「もう、ルーってばのんびり屋さんなんだから。置いて行っちゃうわよ?」
それは嫌だな、と思った。この子に置いて行かれるのは嫌だと、そう思う理由も解らないままに。
そう思ったのが顔に出ていたのか、近くにあるのによく見えない顔が笑う。
「なんて、冗談よ。あたしがルーを置いて行く訳ないでしょう?」
そうだね、と、僕の唇が動いていた。僕の耳にその声は聞こえなかったけれど、目の前のその子は満足そうに頷く。
どうしてだろう。この距離なら、いくら太陽が眩しくたってちゃんと顔が見えるはずなのに。なのに、どうしてこの子の顔は見えないんだろう。繋がれた手から温度は感じるのに、そこには誰もいないとほんの少しでも思っちゃうんだろう。
ねえ、解らないよ。解らないんだ。君の顔も、君がどうしてここにいるのかも、どうして僕の手を取るのかも。馬鹿だから、解らないよ。
「……ねえ、ルー」
いつの間にか隣に立っていたその子は、笑ったまま言う。
「あたし達、ずっと一緒にいようね」
――――君の事も、僕の事も、解らない事だらけだけど。
一つだけ、言える事があった。言わなきゃいけないって思って、だから。
ごめんなさい、××。
僕は、君との約束を守れなかった。
あの頃は頷けた約束に、僕はもう、二度と―――――。
はっと目を覚ます。頭の片隅を、オレンジ色が横切った気がした。
遠くでけたたましく鳴る目覚ましの音を聞きながら、寝たまま壁掛け時計に目をやる。短針が七を、長針が三と四の間を指しているのをぼんやりと見つめたまま、大きく息を吐いた。
「…解ってた、はずなんだけどな」
誰に言う訳でもなく呟いて、体を起こす。寝間着代わりのよれたTシャツが肩からずり落ちそうなのを直しつつ、静かに目を伏せた。
こんな顔、らしくない。ギルドでこんな顔をしていたら、皆に心配されてしまう。こんな、物思いに耽るような、愁いを帯びた顔なんて。
「……よし!」
ぱん、と頬を叩く。体の中のスイッチを一気に入れて、いつものルーレギオス・シュトラスキーを取り戻す。キャラを作るのは苦手だけれど、誰かを心配させない為に欺くのは、昔から大得意だった。
いそいそとベッドを出て、ぐっと伸びをする。今も家中に鳴り響く目覚まし時計を早く止めないと、寝惚けたアル
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