第78話 恐感覚
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何だ?
身体が重い......
サソリは異様な寒気を感じながらまるで水の中に沈んでいくような感覚に囚われていた。
水は身体にぴったりと付いていて動きを制限している。
ゼツに捕まって術を掛けられて何かに覆われるような衝撃が走ると息が出来なくなり目の前が暗転していった。
御坂達はどうなった?
湾内や白井達は?
佐天は?
あの世界は?
オレはどう......なった?
それはこの世界に来る時と味わった空間と相違ない。
懸命に手足をバタバタと動かそうとするが思う通りに動かない。
りんごが地面に落ちると同じように
割れた卵が元に戻らないように
自分がここにいるのが不自然ではなく自然な事に近かった。
生きていたから死んだだけ
死んだら元には戻らない
両親に愛情を求めたやりきれない焦燥感にサソリの心は張り裂けんばかりだった。
何が命を賭けて守るんだと
何が第1位だ......
ふざけるなよ
ふざけるなよ
まだ何も......返してねぇじゃねーか
何でもない日常をくれたアイツらに
サソリはどうすることも出来ない状況にただ呆然と打ちのめされていた。
恐らくだがサソリの両親もこのような断腸の想いで沈んで行ったのだろう。
幼いサソリを遺して死んでいくのは筆舌に尽くしがたい感情の大波がサソリの心を掻き回す。
不意に黒い髪の女性がサソリの背中を優しく受け止めた。
「!?」
まだ小さかった頃に足取りが覚束ないサソリの背中に回ってあんよを手伝ってくれた母の温もりを感じた。
「サソリ......」
「おふくろか?」
身体が動かず正体を確認する事ができないが母のトレードマークだった長い黒髪がしっとりと濡れてサソリの身体に暖かく絡み付いてきた。
「良く頑張ったわね......もう休んで良いのよ」
子供の頃、無条件な当たり前が用意されている場所。
遊んで帰って来たら夕飯が出来ていて
当たり前のように母親が台所にいて
父親が椅子に座っている
お風呂に入って暖かい内に布団に潜り込んで、今日あった事を思い出したながら母親の昔話を聴いて明日を考えて幸せの眠りにつく。
当たり前のように日が昇って、明日が来て待ちきれないように朝食を食べて出掛けていく。
当たり前だと思っていたのに
当たり前だったはずなのに
死は容赦無く当たり前を奪っていく。
最悪のタイミングで
このまま下り続ければ家族が待つ冥府に行けるだろうか?
いや、きっと待っているのは地獄だろう
感覚は所詮物理的な効果に過ぎない。
触れている母の腕、艶やかな髪も脳の電気信号を翻訳した結果に過ぎない。
「悪い......おふくろ」
サソリは渾身の力を込めて首から回してある母の腕を掴むと軽く持ち上げた。
「サソリ?」
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