151部分:第十三話 暖かい風その十
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第十三話 暖かい風その十
「全力で向かう。覚悟はしておけ」
「それはお互いのこと」
陽炎は扇を弄びながらそれに応えた。
「楽しみにしておくぞ」
「うむ。それではな」
「壬生に伝えておきな」
小次郎は明るい笑顔で八将軍に告げた。
「今度やる時も思う存分やろうってな」
「ふむ、よかろう」
いつもの気取った調子の陽炎になっていた。
「それではな。また会おうぞ」
「ああ、またな」
風魔の者達は風の中に消えた。これで風魔と夜叉の戦いは終わった。飛鳥武蔵は黄金剣と共に何処かへと姿を消し誠士館はこれまで制圧していた地域を全て放棄し一校のみになった。白凰も引き抜かれていた生徒達が戻り再起不能だった選手達も風魔の秘術で回復した。平和が戻ったのだった。しかし。
「そうですか。やはり」
「はい」
その平和が戻った筈の誠士館の夜叉姫の一室において。夜叉姫は魔矢から報告を受けていた。魔矢は夜叉姫の前に片膝をつきその姿勢で述べていた。
「あの銀色の髪と目を持つ者達が八つの地域に出ております」
「全ての地域を放棄して正解だったというのですね」
「そうかと」
こう夜叉姫に答える。
「それにあの者達がやはり」
「これまで多くの忍を滅ぼしてきているのですね」
「間違いありません。つい先日も」
「飛騨ですね」
夜叉姫は述べた。
「龍王院狂須は無事だったと聞いていますが」
「はい、彼は無事でしたが」
飛騨忍群において最も名の知られた男である。彼のことは夜叉の耳にも入っているのだ。
「ですが。飛騨の総帥はじめ多くの者達が」
「左様ですか」
「それを考えればやはり今は」
「わかっています」
魔矢の言葉に応える。
「この誠士館において守りに徹する」
「それが宜しいかと」
「そしてです」
夜叉姫はここで話を変えてきたのであった。
「飛鳥武蔵ですがどうしていますが」
「残念ですが」
だがここで魔矢は無念そうに首を横に振るのだった。
「行方は遥として」
「左様ですか」
「あの戦いの後何処に行ったのか全くわかりません」
完全に行方を絶ってしまっていたのだった。夜叉姫はそれを聞いてまた深刻な顔になる。
「残念なことです」
「そしてです」
魔矢はまた言ってきた。
「今宵です」
「今宵ですか」
「既に皆出ています」
今度はこう夜叉姫に述べるのであった。
「誠士館の門に」
「わかりました。彼等もやはり忍なのですね」
言葉が少し微笑みを含んだものになっていた。
「だからこそ。もう」
「宜しいのですね」
魔矢は夜叉姫に対して問う。
「あれで」
「構いません」
また魔矢に答えた。
「彼等の好きなようにさせるのです。今は」
「左様ですか」
「姫も行かれますか」
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