145部分:第十三話 暖かい風その四
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第十三話 暖かい風その四
「御前は本来はその力さえ欲してはいない筈だ」
「何も答えるつもりはない」
これについても言おうとしない武蔵であった。
「悪いがな」
「そうか。なら聞くのを止めよう」
「偵察に行って来る」
「武蔵」
あらためて去ろうとした彼にまた声をかける壬生であった。
「死ぬな」
「!?何が言いたい」
今の壬生の言葉には思わず動きを止めて目を彼に向けるのだった。
「何度も言うが俺は傭兵だ。傭兵だ」
「さっきと同じだが傭兵だからといって死んでいいものでもない」
こうも武蔵に言うのであった。
「これも言っておく。いいな」
「わかった」
「そしてこう考えているのは私だけではない」
「御前だけではないだと」
「夜叉は同胞の死を何よりも忌み嫌う」
夜叉全体についても語るのであった。
「例えそれが傭兵であってもだ」
「俺の様な者でもか」
「そうだ。同胞の仇は地獄の果てまで追い詰める」
この言葉には壬生自身の決意まで込められていた。
「このこともまた。覚えていてもらおう」
「忘れないように努力しておこう」
「そういうことだ」
ここまで言って武蔵はその場から消え去った。壬生だけが残っている。壬生は武蔵の残像を見て一人慎重な目で何かを考えていたのだった。
病院の診察室で。彼は医師からあることを聞かされていた。それは彼が最も聞きたくはない言葉であった。だが聞かざるを得ない言葉でもあった。
「妹さんは残念ながら」
「馬鹿な、そんな病気が」
「あるのです」
話を否定しようとする武蔵に対して沈痛な顔で答えてきたのだった。
「それが。残念なことに」
「馬鹿な、それでは絵里奈は」
「この病気に妹さんの年齢でかかったならば」
「どうなるのですか!?」
「二十歳までです」
「二十歳まで・・・・・・」
「もった方もおられません。申し上げにくいのですが」
医師もまた苦い顔で答えてきたのであった。
「ですから。もう」
「金ならあります」
必死の顔で医師に告げた。
「ですから。妹を、絵里奈を」
「ですが飛鳥さん」
医師はまた武蔵に対して告げてきた。
「貴方はまだ確か学生の筈」
「はい」
そういうことになっているのだ。表の世界では。彼はあくまで誠士館の生徒なのだ。夜叉一族のことを知っているのは忍の者だけなのだ。
「それでお金などは」
「大丈夫です」
答えるその顔は毅然としていたが思い詰めたものでもあった。
「どうとでもなりますから」
「そうなのですか」
「ですから御安心下さい」
「学生さんでもですね」
「ええ、御心配なく」
「そうですか。そこまで言われるのでしたら」
武蔵だけでなく壬生も八将軍も夜叉の者達は全て表向きは学生になっている。
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