謙虚な厳しさ、傲慢な優しさ
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けどただ死にたくない。それだけ考えて生きてきた。でももう、疲れてしまった。お腹が空いてもう動けない。動きたいとも思わなかった。草むらの影で横たわり、このまま眠ってしまおうかと考える。自分の毒草ポケモン達も既に瀕死になっている。
「お父さんとお母さん……やっぱり、きてくれませんでしたね」
名前も声も知らない親でもきっとアルカの事を待ってるはずという少年の言葉を思い出す。特に両親の存在に希望を見出していたわけでもないのだけれど。意識が薄れていく中で、そんなことをアルカは考えて。誰にも愛されることなく、愛されていたとしても自ら喰らい尽して台無しにするだけの人生を終える。……はずだった。
「おい……おい、生きているか!? 頼む……こんなところで死んでくれるな!」
ひどく必死な男の声だった。アルカは自分にそれが向けられているとわからなかった。ただ自分の肩を掴んで無理やり強請る男に、ぼんやりと声をかける。
「お父さん……?」
「生きていたか……! これで駒の一つは手に入った。ひとまずここを離れなければ……!」
男は、自分の質問に答えてはくれなかった。ただ逆立ちしたイカのようなポケモンが自分に催眠術をかけ、意識はそこで落ちる。そして目が覚めると、声をかけてきた男の家の中にいた。
「目が覚めたか? 飯は用意した。だがひとまず……『待て』」
アルカはソファに寝かされており、傍のテーブルには温かいシチューが置かれていた。空腹は酷くて体は重いままだったが、食事を前にすぐに手を伸ばそうとする。しかしただの一言命じられた瞬間。アルカの手がぴたりと止まった。自分の意志ではない。自分を拾う相手の言うことは基本的に聞くが、それでも飢え死にするかしないかの瀬戸際で食事を前に大人しくできるような聞き分けのいい人間ではなかった。自分に命令をした男の方を見る。
「問題なく効いているようだな。ならば『食ってもいい』」
その一言で弾かれるように体が動き、がむしゃらにシチューを頬張る。熱々のジャガイモが舌に張り付いて火傷をしたがそんなことどうだってよかった。ただ空腹を満たせることに安心する。シチューが空になると、特に何も言わず男はお代わりを持ってきた。それが何回か続いてアルカがスプーンを止めると、男がまた声をかけてくる。
「さて、ようやく落ち着いて話が出来るか。お前がアルカ・ロイドだな?」
アルカはこくりと頷いた。それが最初に拾った老人のつけた名前だった。植物が持っている毒の名前をそのまま取ったらしいことは聞いていた。
「最初に言っておくが、お前には既に私の催眠術がかかっている。私の言うことには絶対に逆らえないと思え。『お前やお前の持つポケモンは絶対に私を傷つけられない』」
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