Side Story
少女怪盗と仮面の神父 43
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「な……、なん、……?」
桃を使った暗示は解けている。誰かに何かをされたわけでもない。意図的にミートリッテを眠らせる方法なんて無い筈なのに、たった一言「寝ろ」と告げられただけで頭の奥がぼんやりと滲んで薄れていく。
まさか、匂いの他にも何かがあるのか?
ありえない……。人の頭に幾つ仕掛けてるんだ、この人でなし王子!
「うん? あー……、私は何もしてないから安心しろ。アーレスト曰く、真に心地好い旋律ってヤツは、耳に聴こえてなくても人間の脳を深い眠りへ誘えるらしい。理窟を聞いてもサッパリ解らんかったが……道具も無く意識を操れるとか、音楽ってのは意外と万能だな。誰にでもできるようになったら世界中で洗脳合戦が起きそうだ。怖い怖い。」
(おん、がく? って、これ……アー レスト……しん ぷ の しわざ……か……っ!)
人間には絶対不可能・不可解な現象が起きたとしても、やる事為す事総てが生物の常識をはみ出しているアーレストの所業だと聞けば、成程そうかと疑いも無くすんなり受け入れられる。
最早、異常じゃないアーレストなど、アーレストではない。ただの神父だ。
……本来なら、それが普通なのだが。
人の意思を無視して何してくれてんだ、こんちくしょう! と悪態を吐くつもりでアーレストを見上げ
(……あ、れ ?)
ふと、目に焼き付いた星空。
暗闇に灯る光。
突然動かなくなった体。
見下ろしてくる美しい聖職者。
閉じていく思考に、這い上がる既視感。
( ま さ か )
海賊の依頼、遂行初日。
神父の弱味を探るつもりだった教会で
夜中まで眠っていたのは。
何故かシャムロックの暗示が解けていたのは。
ミートリッテのうっかりでも感傷でもなんでもなく
あ ん た が 犯 人 か !!
「……えーと……すみません?」
壮絶な眠気と戦っていたせいか、思いがけない事実に行き当たったからか。恐らく、アーレストを見る目が、悪魔も裸足で逃げ出しそうな険悪極まりないモノになっていたのだろう。
なんだかよく分からないけど、一応謝っておく。
そんな意図が見え隠れする神父の謝罪を耳奥に残し、ミートリッテの意識は……途絶えた。
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