序章 嵐の中へ
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供同士のちょっとした諍いが大ゲンカとなり、そして互いの親が介入して睨み合うような愚行が、中国と韓国の間で繰り広げられているのだ。
国際法や海洋条約の観点から見ても極めておかしいものである。
異様なのは状況だけでなくその海域である。
両軍が居るのは韓国の排他的経済水域。何らかの軍事行動を起こさない限り軍艦のEEZ内通行が認められる無害航行が一般的な現代において韓国EEZに中国海軍艦艇が居るのは珍しくない事だが、その韓国の海軍艦艇と対峙するとなると話は別となる。
そもそも何故中国海洋監視船が韓国EEZへ接近していたかと言うと1週間前にも発生した中国漁船拿捕である。
EEZ内を逃亡する漁船に巡視船を体当りさせ強行逮捕を執行した韓国側に中国が反発、『自国の漁民を守るための正当な防衛行為』と称して海洋監視船を韓国EEZの外側で遊弋させていたのだ。当然韓国側も抗議したが中国は聞く耳持たず、そうして現状況が生み出されたのだ。
「台風17号の中心まで30`です」
海洋天気を担当する古川気象長が台風下でも危険な中心海域に『まきなみ』が接近している事を知らせた。さらにローリングが激しくなってきた。
「しかし、この荒れ模様の中でよくも飽きずに睨み合えますね」
「全くだ、両軍共にシャレにならん状況であるのは分かっているはずだが」
「そんな意地っ張りになる事なんですかねぇ両国政府も」
山川の呆れ口調に、三浦も同調する。当該海域は台風の左側にあり 、右に入ったこちら側よりは幾分マシであろう。それでも台風中心に近ければさほど差がなくなってくる。その状況下で争うとは、もはや両軍がバカをやっているようにしか思えてきて仕方ない。
しかし、韓国と中国がここまでに強硬姿勢を取るのは三浦にとって意外だった。
北朝鮮による核開発がなおも予断を許さない状況にある東アジア情勢をさらに混迷に陥れるのは確かだ。
「ま、我々自衛官は政治状況に囚われず与えられた任務を全うする事が仕事ですから。この話題はここまでにしましょう」
そうだな、と山川に同調するために頷いた瞬間である。
いきなり目の前が真っ白になった。
それと同時にタダでさえ足元が不安定だった艦橋が重い衝撃に襲われた。
ローリングに対し踏ん張っていた三浦の足が瞬間的に地を離れた。そのまま吹っ飛ばされて何かの計器に頭をぶつけた。凄まじい痛みが後頭部を襲う。幸いまだ視野はあった。
「…艦……大………です………」
山川の声が少し遠い気がした。気のせいか。
「…雷発生………を受けま……………………」
どうやら気のせいではないようだ。
何も考える暇も無く、三浦の意識は闇へ引きずり込まれた。
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