序章 嵐の中へ
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202X年 9月下旬
長崎県中通島東海上 約10`地点
「『ましゅう』、本艦との平行航路を離れる」
「了解した。進路そのまま、両舷第2戦速」
「進路そのまま、両舷第2戦速」
鉛色の雲が空を覆っていた。
艦橋のガラスを雨が音を立てて強く叩く。先刻から暴風も著しく酷くなっていた。
今年1番の勢力を誇る台風17号が九州北部を襲う中、海上自衛隊佐世保基地所属の第2護衛隊群の次世代型ステルス艦『まきなみ』は一路対馬沖を目指していた。
米海軍との合同訓練をフィリピン沖の西太平洋で行ったあと、『まきなみ』は佐世保基地へ帰港するために東シナ海を北上していた。
まもなく長崎県本土と五島列島を隔てる角力灘に入ろうとしたところ、《対馬西方沖の韓国EEZ(排他的経済水域)にて中国海軍艦艇と韓国海軍艦艇が睨み合っている》と第2護衛隊群司令部から報告が入ってきた。
韓国海洋警察巡視船と中国海洋監視船の間で発生した韓国の排他的経済水域における中国漁船拿捕を巡るトラブルが両国当局の不手際も重なり軍艦を巻き込んだ局地的緊張を生み出したのだ。
すぐさま第2護衛隊群司令部を通して自衛艦隊司令部から《状況の監視に当たれ》との指令を受け北上を続け平戸沖から対馬海峡へ抜ける事にした。
現場海域より東側に離れた対馬沖日本領海内には、同護衛隊群『てるづき』が先に現着しており、膠着した状況を東京へ報告しつつ監視していた。
『まきなみ』の追加派遣は監視活動に入っている『てるづき』のバックアップを想定したものと受け止めていた。
先程、同じく佐世保基地所属の補給艦『ましゅう』より燃料及び武器弾薬の補給を受けた所である。荒波の中の補給活動は至難の業だが、熟練の乗組員達はそれをやってのけてくれた。
荒れ狂う海上を進み、収まらぬローリングとピッチングに襲われる中、艦橋は独特の緊張感に包まれていた。
先行した『てるづき』からは《両軍艦艇が160mを挟み艦外スピーカーを用いた警告を発し続けている状況》という事だ。そのようならば対艦ミサイルを用いた水上戦闘は現時点では有り得ないだろう。
しかし、自衛艦隊司令部引いては海上幕僚監部が恐れているのは両軍艦艇による主砲や機銃を用いた砲撃戦へ発展するケースである。そうなれば死傷者が出る事が予想され、さらなる増派で中国と韓国の本格的な軍事衝突へ繋がる可能性すらある。
その時点になれば『まきなみ』『てるづき』の2隻が無傷でいられる保証はない。その頃に護衛隊群本隊が到着するのを祈るしかないのだ。
「…漁船拿捕ごときでなんで海軍艦艇派遣する騒ぎになるんだよアホ」
副長兼船務長の山川修2等海佐の悪態に、艦長の三浦俊彦1等海佐は同様の念を抱いた。
今回の両国の対応はあまりにも稚拙と言わざるを得ないものだった。子
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