外伝
外伝『魔弾と聖剣〜竜具を介して心に問う』―前章
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顔つき。だが、その瞳は意志の強さが伺えるほど光り輝いている。中肉中背だが、筋骨のたくましい体格をしており、身なりも傭兵のそれに似通っている。
「本当に不思議な男だな。ヴィッサリオンは――」
「よく言われます」
まるで、絶えず流れる『大気』のように、同世代の煌炎の戦姫と同じく、ヴィッサリオンの性格はつかみどころがない。
だが、そんな彼の鼻をかき鳴らす仕草が、先ほどの軍議で堅くなりがちな戦姫の心をくすぐった。
戦姫は思わずクスリと表情を崩した。
「戦姫様。笑ってはダメですよ。船員が怖がります。ただでさえ『竜姫将』とか『戦鬼※7』とか『遠呂智』※8とか呼ばれて皆怖がっているのに!」
「余計なお世話だ」
そういって、『闇竜の聖具』たる刃を、ヴィッサリオンの前に突き立てた。
『竜姫将−ドラグレイヴ』……そう揶揄されるほど竜神のごとき荒ぶる勇者の象徴。
『戦鬼−イクサオニ』……そう比喩される鬼神のごとき武威。
ついでに言うと、その大鎌という形状と紋様も相まって、東洋魔王の敬称『遠呂智−オロチ』とさえ呼ばれる始末。
そんな色気のない異名が、このオステローデの現主には、常にまとわりつく。唯一あるとすれば、『|虚影の幻姫『ツェルヴィーデ』』くらいしかない。
この戦姫、戦場に出れば鬼神のごとき働きで、あるがままに星の数ほど武勲を得たそうだ。※4
しかし、戦場でいくら功績を積み重ねようが、彼女の望むような『流星』は一向に現れない。――ヴィッサリオンが現れる迄は。
「不敬罪で死刑を言い渡してもいいんだぞ」※5
「すんませんでしたー!」
「……全く!これから『黒船』と一戦交えようというのに……神経が太いというか、何というか……」
戦姫の竜具なのか、それとも彼女自身の武威による畏怖なのかはわからない。ヴィッサリオンはひとまず謝ることに専念した。
「でも――――ありがとう。ヴィッサリオン」
「戦姫様……」
思わずヴィッサリオンは聞き返してしまう。その感謝の言葉は困惑気味にも、どこか儚げにさえ聞こえる。そして、透明な笑みを浮かべる。
「そういえば、戦姫様は一度『黒船』と交戦したことがあると、おっしゃっていましたね」
黒髪の傭兵は、黒髪の戦姫を気遣うように言いやる。戦姫は何も言わず、コクリとうなずいた。
きっと、怖いはずだ。たとえ一騎当千と称えられたところで、『黒船』との差を埋めるのは容易ではない。一度はその尊厳と恐怖を同時に知ってしまった彼女だからこそ、先ほどの気が緩むようなやり取りはありがたかった。
臣下や他の水夫では当然無理だ。戦姫という立場が前提にあるわけだから、不遜な態度として軍紀が乱れるに違いない。だからこそ、ヴィッサリオンのような
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