外伝
外伝『魔弾と聖剣〜竜具を介して心に問う』―前章
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の正体は、この旗艦にして指揮官、そして、当代の『煌炎バルグレン―討鬼の双刃』が主、レグニーツァ公主様だった。マドウェイ、パーヴェル両名は戦姫を前にして、紀律を正し、姿勢をぴしりとなおす。
煌炎の戦姫の問いに、かすかながら緊張が走る。戦姫の口調は暖炉のたき火のように、穏やかであったにもかかわらず。
「戦姫様。どうもこいつらが『索敵・探知』での船操術についてもめているようで……」
このような両者のもめごとは何も珍しいことではない。二人が船上で居合わせてあーだこうだいうのは、レグニーツァにとって風物詩となっている。むしろ、切磋琢磨して互いを『競生』している光景は微笑ましいものでもある。
二人は、必ず将来のレグニーツァで必要になる。まだ見ぬ未来の『煌炎』へ、その聖なる火を中継して明け渡すその日まで。
本来なら騒ぎを起こしたとして、罰を与えなければならない。だが、この戦姫はしかりつけるだけに留めるのだった。あきれたため息を、前置きにして。
「君たちはまだ若い。多少の口論は良しとしよう。だけど、時と場所をわきまえたほうがいい。もうすぐ……『戦争』になるからね」
時と場所。これから訪れる未来の時と、戦場へ変貌する場所を己が主に再認識させられ、二人の背に再び脅威が走る。
ひたひたと迫っているのだ。この揺れる木造船は、確実に戦場へ近づきつつある。
見習いたる二人をあえて指揮官の、それも戦姫の船に同乗させる理由はいかなるものか――
まだまだ未熟な船員とはいえ、威圧せし剣腕と人を惹きつけることをやまないカリスマ性は、将来、次代のレグニーツァで大物になるだろう。
例え『聖火』といえど、それ単体では何も灯すことはできない。導き手たる戦姫と、聖火の風下として手助けする『松明』が必要だ。
だからこそ、『種火』たる二人には、――戦姫の戦い――その瞬間という貴重な場面に立ち会って経験を積んでほしいのだ。
「ところで戦姫様はどうしたんですか?一人なんて珍しい。船長は一緒じゃないのですか?」
「追い出されたよ。合流するまでの間はゆっくりしてこいって」
部下の問いに対し、長い黒髪の戦姫は苦笑い気味に答えた。
「確かに、今この時は主様に休息が必要ですな」
微笑まじりに、武官の一人がそういった。それは、皆が共通に感じていたことだった。
ルヴーシュ・オステローデと合流した後は、対黒船の軍議が待っている。この戦における標的『黒船』について意見交換するために。これから起きるであろう厳しい戦いを想定すればこそ、主には今のうちに休んでほしいところだ。
黒船――外見だけ言えば、文字通り常闇一色に塗りつぶされた船。
わざわざ『黒』なのは、黒竜を始祖とするジスタートへの、悪意を込めた皮肉なのだろうか?それとも、単なる偶然なのか?
何も、黒船襲来
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