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俺の四畳半が最近安らげない件
信玄公の厠
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駅近、日当たり良好、治安良し。
絶好の条件なのだ。……一つを除けば。

「トイレ、めっちゃ広いですね」

この意味不明なトイレの広さは何なのだろう。四畳半くらいはありそうだ。
「この物件の持主が施工当時、大河ドラマの武田信玄にハマっていまして」
不動産会社の担当者、狛江氏が、恐らく何度も繰り返されたであろう文言を機械的に繰り返した。…内覧者全員、まずそれを聞くのだろう。…当たり前だが。
「武田信玄」
「信玄公は六畳敷の広いトイレに籠るのを好んだと云われています」
狛江氏は立て板に水を流すように滔々と喋る。彼はこの説明を何度繰り返したことだろう。このトイレを初めて見る俺はもう面白くって仕方ないんだが、彼ほど長い事この物件に関わっていると、もう面白くもなんともないのだろう。
「六畳のトイレを作るにはスペースが足りなかったので、四畳半に変更になりました」
そう呟くように云って、狛江氏はタブレットを取り出し間取り図を表示した。…『トイレ』が『キッチン』を圧迫する勢いで張り出している。なんだこの変な間取り図。
「――この間取りを初めて見た時、誤植かと思いました」
「でしょうね」
未だに二日に一回くらい、ご指摘のメールを頂きます…そう云って彼はタブレットを仕舞った。
「普通…逆ですよね、キッチンとトイレの広さ」
キッチンの広さでも広すぎる位だが。俺は何となく、便座に腰かけた。
「……なんだこれ」
右側に、細い金属の傘立てみたいなものが置いてある。
「信玄公が広いトイレに固執した理由といたしまして」
銀縁の眼鏡を押し上げ、狛江氏が俺の傍らに立った。
「用便中に敵襲に遭った際、狭いトイレだと刀が振り回せず、応戦出来ない…という事情があったらしいですよ」
「じゃあ、これは」
「家主オリジナルの刀差しですね。元々は『洞爺湖』と書かれた木刀が差してありましたが、内覧にいらした方々がこぞって妙な顔をなさるので撤去させていただきました」
なんでこの一連の台詞を笑わずに云えるんだこの人は。
「木刀も…セットですか」
「お付けいたします」
「要らないです」
「まあそう云わず。私共も要らないので」
腰かけたまま、トイレの中を見渡す。時折、街中で『だれでもトイレ』とかいう四畳半くらいのトイレを見かけるが、な〜んかこれ、そういうトイレとは様子が違うのだ。何というか…何でだろう…。
「―――あ、そうか。便器が部屋のど真ん中にあるのか」
誰でもトイレが広いのは、車椅子ごとや大きめの医療機器と一緒に入れるように、そして介助者が入るスペースの為なので、便器自体は壁際にあるじゃないか。
何で便器が四畳半のど真ん中に堂々と据えてあるのだ。
「……ちょっと待って下さい」
俺はこのトイレの致命的な欠陥に気が付いてしまった。
「トイレットペ
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