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俺の四畳半が最近安らげない件
信玄公の厠
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ーパーがめっちゃ遠いんですが」
これは…あれだぞ。俺は用を足す度にパンツを上げずに立ち上がり、ヒヨコのようにぴょこぴょこと2メートル近くも移動しながら紙を取りに行かなけりゃならないのか。便が一回で拭ききれなかったら『ヒヨコ☆リトライ』か。
「それはご安心下さい」
狛江氏がクイと顎で頭上を示す。…滑車のようなものが、便器の真上に垂れているのが見えた。
「ペーパーホルダーから、紙をこの滑車に引っ掛けておけば、座ったままでの用便が可能に」
「普通のトイレは可能なんですよ?」
「そうそう、紙は必ずダブルをお使い下さい。シングルだと滑車で千切れる可能性があります」
「なんでそこまでしてトイレを四畳半にしたんですか」
「私が聞きたいところです」
慣れた感じでいなすと、狛江氏は小さなトイレの窓を見上げた。
「地域的にNGだったから思い止まられましたが、ここは信玄狂の大家の希望で汲み取り式にされるところだったのです」
「そんなことしたら愈々、借り手はつかなかったでしょうね」
何だよ信玄狂ってよ。
「……そろそろですかね」
狛江氏がぽつりと呟くや否や…何かこう、仏壇の周辺のような匂いが漂い始めた。猛烈に。
「ちょっ…何この臭い?」
「追加情報ですが、今現在…大家が換気扇の下に来ています」
「何で換気扇の下に!?」
「信玄公の厠では、毎日決まった時間になると小僧が通気口の辺りで香を焚いたそうですよ」
「えぇ…」
ちょっと待て、まさか。
「この格安物件のもう一つの『特徴』をご説明いたしましょう」
極めて事務的な切り口上で告げてから、狛江氏が書類を数枚繰った。


「毎日定刻になると、この物件の所有者が換気扇の下に香を焚きに来ます。一日たりとも欠かしません」


「厭だよ!!」
つい叫んでしまった。
何だよその条件。大家なに考えてんだよ。
「落ち着いて聞いて下さい」
「この場合、貴方の落ち着きぶりのほうが逆に怪しいですからね」
「慣れましたので。あなたのその動揺っぷり、2年前の衝撃を思い出します」
「2年も借り手がつかないんですか?なんで大家をちゃんと説得しないのですか?これ借り手が女性だったら完全にセクハラ事案ですよ」
「徒労に終わりました」
下腹に重いブローを食らったような一言だった。
「ご苦労されましたね」
「仕事ですから」
狛江氏は相変わらず、眉一つ動かさない。
「ここをご案内した後、次の物件の成約率がグンと上がるのです。人生万事、塞翁が馬…というわけでございますね」
「でしょうね…下手な事故物件よりはるかに怖いですから。よく知らないおっさんが換気扇の下に香を持って日参するとか」
「大家は香を焚きに来るだけです。借り手の人生には一切関与しません」
「それが逆に怖いんですってば」
「私もそ
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