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SAO─戦士達の物語
MR編
百四十七話 それでも尚、望むもの
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「…………」
全てのメッセージを入力し、共通ストレージの設定が終わってから、サチはふと、手元にあるもう一つのクリスタルを見た。そこに在るのは、キリトの後に録音したある青年に向けたメッセージだ。彼に伝えるべき……否、伝えたいと思っている、大切な言葉がそこに録音されている。どうせ死ぬのならと思い立って、思い切って録音したものだ。

「…………」
キリトへのクリスタルと一緒に、このクリスタルを入れ、時限式のメッセージを設定しておけば、きっと彼はこれを、目的の青年に届けてくれるだろう。死んだあとまで彼の厚意に甘えてしまうことになるが……きっと言葉は伝わるはずだ。

「…………」
彼女はそれを──

────

そしてそのほんの一週間後、黒猫団は殆ど全てのメンバーを失い、壊滅することになる。

────

あの日の事を、今も稀に夢に見ることがある。視界を埋め尽くす赤い光と、無数のモンスター、そして断末魔と共に命をガラスのように散らしていく仲間たちの最後の表情。自分と繋がりを持った大切な友人たちが、次々に消えて行くあの光景を忘れることは、多分一生出来ないのだと思う。

あの事件から二週間以上、サチの心は、着実に壊れていた。

2023年 6月28日 16歳

「はっ……はっ……うっ……」
吐きそうになる体を丸く縮こまらせて、サチは水場にへたり込む。恐怖と後悔、悲哀に委縮した身体が、再び動かせるようになるまでには、何分もの時間がかかった。

今朝もまた、自分の悲鳴で目が覚めた。
頭の中で今もぐるぐると回るあの日の光景を必死に頭を振って振り払おうとするが、そんなことは無駄であると自分が一番よく分かっている。記憶というフィルムに焼き付いたそれは、何時まで経ってもサチの脳裏にこびりついて離れない。自分でも自覚できる、完全なトラウマになっていた。あの日キリトと別れてから、サチはリョウと共に、宿で休み、翌日黒鉄宮で、ケイタの死を知った。記されていた死因は自殺、ケイタはキリトとサチから話を聞いた直後に、自らアインクラッドから身を投げたのだ。
それからサチは、ケイタが購入し、カギをギルドストレージに置いていったこの黒猫団のホームになるはずだった一軒家に住み、日々を送っていた。

『リョウは……出かけたのかな……?』
同じ家の別の部屋に、今はリョウが泊まっている。彼自身は何も言わなかったが、彼が状態の人間を放っておけるようなタイプの人間でないことはよくわかっている、それが、自分が彼に迷惑を掛けているという事であることも……

『今日は、どうしよう……』
とりあえず、この気持ちの悪い冷汗(正確には、SAOは生理現象が省略されているので、そんな気がするだけだが)をどうにかしたいと感じて、彼女は風呂場へと向かう。脱衣所に
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