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SAO─戦士達の物語
MR編
百四十七話 それでも尚、望むもの
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ると思えた。そして当然だが、人と人はかかわる時間が増えるほど、相手に対する理解が深まっていくものだ。サチが見た限り、キリトは他人と深く関わりすぎるのを避けようとする割に、とても心優しい少年だった。
黒猫団のメンバーと共に行動しているときの彼は、何時もどこか一線を引いていて、リーダーであるケイタやテツオを立てて口を出さない。しかし有事の際には率先して前に出ていくし、全体の事をよく見ていて、HPや武器の耐久力だけでなく、メンバーの精神的な消耗を察して積極的に指摘し、常に安全を重視して行動するように全体を誘導してくれた。
そのおかげで、キリトが入って以降の黒猫団は目覚ましい勢いで成長していき、メンバーにも自信が付き始めていたのだ。

なんというか、キリトは黒猫団のメンバーにとって、引率の先生というか、お父さんのような存在だなとずっとサチは感じていた。後ろからそっとメンバーを見守りつつ、いざとなれば助けてくれる、そんな優しい父親のような存在だ。
だが同時に、それはつまりキリトは自分から、自分達の命を背負い込みながら戦っているのではないか、という懸念を生んだ。もし自分が死んでしまうような事態に遭遇したとして、仮にその場にキリトが居たとしても、きっと彼は生き残ることが出来る……出来てしまうだろう。
自分にとって大切な誰かが死んだあとも生きる事が、どれだけ苦しく、どれだけ辛いのか……それは、少なくともこのメンバ―の中では、サチが一番よく知っている。ともすればこんな世界では、簡単に自分から命を捨てることすら選んでしまいかねないほど、本当に苦しいのだ。

『それは……ダメだよね』
キリトには、伝えなければならない。自分が死ぬであろうことも、それが何故なのかも。そしてそれが、彼の責任ではないことも。本当は直接自分の口から伝えようと思ったが、それは止めた。「それ」を口に出して打ち明けるときはつまり、「自分の生を本当に諦める時」だと思ったからだ。今すぐに生を諦めるなら、少しだけ未来にそれを先延ばししようと考えた。目標は12月25日、アインクラッドでは、イベント性を大事にするためかその日は雪が降ることを、一度来たクリスマスのおかげでサチは知っていた。
ロマンス語るをつもりはないけれど、サチは一度、キリトと真っ白な街を歩いてみたいと思っていたのだ。

それまでに自分が死んでしまった時に備えて、若干苦しい言い訳をして設定したキリトとの共通アイテムタブに、時限式のメッセージ記録結晶を残しておいた。

『なんか、お爺ちゃんが「終活」してた時に似てる……』
母の実家に行った時、祖父がそんなことをしていたことを思い出して、サチは小さく笑った。……あるいは、あの頃、自分と話していた千陽美も、こんな気持ちだったのだろうか……?そんな考えが頭をよぎったが、答えは出なかった
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